日本からオランダに生活の拠点を移した最初の頃は「今」に目を向けがちで年金制度にまで気が回らないことも多いと思います。
ここではそのオランダの年金制度について解説します。
- 日本人はオランダで年金支給の対象となるのか?
- 両国で勤務し保険を収めた経緯がある人の年金は?
などの疑問にもお答えします。
また、「オランダの年金制度は本当に世界一」(アメリカのコンサルティング会社、マーサー(Mercer)の年次グローバル年金指数から導き出されたもの)とされていますが、オランダの社会の声を織り交ぜながら、らこのあたりも筆者の見解をお伝えします。
オランダの年金制度の仕組み。3つの柱とは
オランダ語で年金は(Pensioen)ペンシュンと言います。
オランダの年金は3つの柱から成り立っています。
- 1つ目はAOW(Algemene Onderdomswet)一般老齢年金法
- 2つ目はPensioenopbouw via de werkgever雇用主による補足年金
- 3つ目はIndividuele aanvullende pensioen個人の追加年金(個人保険)
と言います。
社会全体で加入者が多いのは1つ目と2つ目の年金です。しかし近年では3の年金が老後の生活を支えるためには必要不可欠という見方もされています。
第一の柱 AOW
一つ目のAOWは日本の年金で言うところの国民年金に相当します。
オランダに在住していて働いていると自動的に加入する仕組みになっています。
年金の支払額は住んでいる州によって変わります。州によって積み上げられる年金の額が違うためです。
受給開始年齢は今のところ66歳4ヶ月とされており、2020年、2021年もそのままです。
しかし2022年には三ヶ月上がり66歳と7ヶ月となり、2024年には67歳となると政府から発表されています。
更に独身であるかカップルであるかによっても年金額が変わります。
独身者である場合の方が支給額は多くなります。その理由は生活費などのシェアが難しいということからです。
カップルであってもどちらか一方がほとんど収入も年金もない場合には、パートナーが申請することで高齢者向けの補足所得保険の対象になることもできます。
AOWは社会保険に50年間加入していることが条件で満額を受け取れる仕組みになっています。
日本の様に10年以上国民年金を納めていなければ年金が全く受け取れないということはありませんが、1年間被保険者となることでAOWが2%積み上げられるという仕組みになっているため、受給資格年齢に達した時に50年間を満たしていない場合は被保険者でなかった年数×2%の額が満額から減額されます。
AOWは半年に一度調整のために条件が変更されるので、一年に一度は確認しておく方が良いとされています。
AOWについての詳しい説明はこちらからチェックが可能です。
第二の柱 Pensioenopbouw via de werkgever
二番目の年金は日本の年金に例えるのであれば厚生年金に相当します。
オランダの場合は企業に雇われている場合には1つ目のAOWに加えてこの年金に加入することになります。
オランダでは雇用主の90%がこの補足年金を利用していると言われています。退職した従業員はAOWの年金に加えてこの補足年金も得ることができます。
雇用主側は通常、年金保険料の三分の二を支払ってくれます。ですから従業員の負担分は三分の一となります。この二番目の補足年金はオランダの年金基金によって投資され、その投資によって得られた収入から被保険者に支払われます。
また従業員が固定年金か変動年金かを選択できるようになっており、最後の確認と選択は退職後、年金支給が始まる前までに行なわれます。
それまでに固定年金か変動年金かを選択します。Pensioenopbouw via de werkgeverは年金基金により投資されているので固定年金か変動年金かを選択することで基金に影響を与えることになります。
年金支給が開始されると固定年金か変動年金かの変更はできなくなります。
そして固定年金を選択した場合はそれまで支払った年金を基金が投資した結果の基で固定額が支払われます。
変動年金を選択した場合には年金受給開始後も投資が続き、生涯年金は不確実です。
大体ですが15%の増減があると言われています。
第三の柱 Individuele aanvullende pensioen
三番目の年金は生命保険などが該当し、種類も様々です。加入するかどうかは個人の自由です。
この三つ目の年金は年金格差を補うため、早期退職者のためにという意味合いも込められています。こちらの年金は確定申告の対象なので支払額によってはいくらか戻ってきます。
オランダの社会での三番目の年金の位置付けとしてはもう一つ大きな役割があります。
それは従業員の居ない個人事業主に向けられています。
オランダでは従業員の居ない個人事業主がとても多いのですが、収入格差や失業率などの面からも社会で心配されている労働形態です。
そのため年金も同じく老後の生活を十分に送るだけの金額を得るのが難しいという実態があります。
従業員の居ない個人事業主はAOWには自動的に加入していますが、安定しない職であることやAOWの満額を受け取ることのできる確率が低いので、この三つ目の年金への加入が得策とされています。
ですので、この個人年金にはこの様な個人事業主に向け、特別に調整された年金制度という位置付けで様々な種類が用意されています。
年金の規則が定められている年金法は、年金基金、雇用主、従業員の義務と責任を規制しているものです。
DNB(Nederlandsche Bank)とオランダ金融市場局(AFM)が監督しています。
オランダで日本人が年金に加入する方法
日本人がオランダで年金を積み上げていくためには、居住登録ができる住所の住居があり、滞在許可証、労働許可証を必ず取得している必要があります。
そしてオランダ社会で生きていくためには義務である保険への加入が必要です。
1の章の年金の仕組みにのっとって、日本人の移住者でも年金を受け取ることができます。
社会保険に加入することで自動的にAOWの積み立ては開始されます。
後は個人がどの様な形態で働いているかによって加入する年金が変わってきます。
ここ数年で日本人の個人事業主の登録者が増えているので、その様な場合ですとAOWに加えて、個人保険へ加入する方も居るはずです。
1の章でも述べていますが、3つ目の個人保険への加入は個人が決めることですので加入していない人も多いのが現状です。
筆者も加入したのはオランダに来てから2年が経過した頃でした。
しかし年金の受給額が減額される確率の高い移住者にとって、老後もオランダで過ごす予定があるのであれば、できる限り年金を手厚くしておきたいものです。
オランダの会社にサラリーマンとして勤務している場合は、雇用主により2つ目の保険、日本でいうところの厚生年金に加入してもらい、その大部分を負担してもらうことができます。
ただし、一部の会社では保険に加入していなかったり、加入していても従業員を全員保険の対象者としていないこともありますので、雇用契約を行なう前に雇用主に確認することを覚えておきましょう。
三つ目の個人保険などについて調べることができるオランダ金融市場局のサイト
参照:https://www.afm.nl/nl-nl/consumenten/themas/producten/pensioen/zelf-regelen
オランダと日本の社会保障協定について
オランダと日本の間には社会保障協定が締結されていることをご存知でしょうか?
この社会保障協定とは、日本国から海外に、海外から日本国に一時的、若しくは長い期間働きに行っている際に生じる社会保障の問題を解決するために各国間で話し合われて締結されたものです。
社会保障協定の内容は日本年金機構のホームページから検索することができます。
オランダと日本の間で締結されている社会保障協定のおかげで、年金に関しても赴任している人、自営業者として働いている人に不利にならない様になっています。
オランダでは老齢年金の受給資格のためには国民の義務で必ず加入する必要のある保険があり、在住するためには加入は必須です。
そしてその保険を1年でも支払えば受給資格は得られます。
全ての国民が年金を受け取ることができる仕組みになっています。
しかし日本では10年以上、国民年金を納めていなければ受給資格がなくなります。(以前は25年でした。)
もし日本で国民年金、若しくは厚生年金を5年間納付した上でオランダに移住した場合、日本で納付した国民年金や厚生年金は無効になると思われがちですが、両国間で社会保障協定が締結されているため、その5年間は無駄にはなりません。
オランダに移住して勤務、若しくは個人事業主(自営業者)として働き社会保険を収めた期間がオランダの年金納付期間としてカウントされるだけでなく、日本で年金を納付していた期間も合算してカウントされます。例えば日本で5年、オランダで25年勤務していたら30年と見なされます。
※オランダに居住しているだけではこの対象にはなりません。社会保険を納め働いていることが条件です。それと日本とオランダでの保険の納付期間がだぶっている部分はカウントされません。
そして年金受給資格年齢に達し、年金の給付が開始された時に、日本に居てもオランダに居てもどちらの国からも両国の年金を給付することができます。給付方法はオランダの年金は銀行口座へユーロで支払われます。そして年金への課税は年金受給時に居住している国でされます。
短期間の赴任の場合やオランダから日本の企業へ短期赴任、自営業者としての移住などのケースについても日本年金機構のホームページに記載されているので、気になる方は一度見てみると良いと思います。
日本年金機構ホームページ:
https://www.nenkin.go.jp/index.html
オランダと日本の社会保障協定:
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shakaihosho-holland-jp.pdf(訳文)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shakaihosho-holland-en.pdf(原文)
マーサーの年金ランキングの結果についてのオランダの有識者の見解
さて、世を賑わせている「オランダの年金は世界一!」という内容ですが、これはご存知の方も多いと思いますが、アメリカのコンサルティング会社、マーサー(Mercer)の年次グローバル年金指数から導き出されたものです。
筆者は正直なところ、この見解について少し疑問視していました。
その理由としては、周りのオランダ人が話す年金の内容とあまりリンクするところがなかったからです。
筆者が簡単にオランダの年金制度について話すとしたら、「オランダもこのまま行けば日本の様に高齢化社会による年金問題が勃発する」という感じでしょうか。
マーサーの年金指数が高い一番の理由は、オランダの年金の持続性の高さが評価されているからです。
持続性の高さについては次の章でお話ししますが、このマーサーの年金指数を導くために使われた情報はOECD(世界協力開発機構)の情報を基に導き出しているため、現実とは異なると声を上げている有識者もいます。
例えばこの内容には失業についての数値がないことやオランダ国民の生涯収入が、生涯安定して得られると仮定されている点などに疑問を唱えています。
オランダの年金制度の実情
オランダの年金が世界一になった一番の理由である持続性の高さについては、それぞれの大手年金基金が現金を確実に持っている点にあります。
投資がうまくいかなくても、少しずつ社会のバランスが崩れてきても耐えることができる状況に今はあるのです。
しかしオランダ中央政府の公式サイトなどでも、年金の受給資格年齢を少しずつ上げています。
そして現実問題として三つ目の柱である個人保険への加入を強く勧める社会の動きからも分かるように、オランダの年金制度にも少しずつ陰りが見え始めていると感じています。
三つ目の個人保険への加入は先にも述べたように個人事業主のAOWがわずかなものになる可能性が高いため、その補足として加入しておくべきというものです。そしてもう一つの理由としては早期退職者のための保険でもあります。早期退職をするということはAOWやPensioenopbouw via de werkgeverが減ります。
ここから見えてくることは、三つ目の個人保険に頼るということで「国の保障だけでは老後は厳しいので個人で対策をして下さいね。」と言われているのと同じだということです。
オランダのニュースなどに上がってくる年金関連の記事の中にもオランダ人の老後の苦しみと葛藤が記載されたものも出てきています。これらが示している様に「オランダの年金制度は世界一!」といわれている陰に隠れて、年金問題も確実に膨れてきています。
おわりに
オランダの年金制度への一般的な声と現地で生活をしていく中で見えてくるオランダ人の年金制度への声というものは少し違うものです。
日本の様に切羽詰まった状態にはなってはいないものの、今後のオランダの年金制度への取り組みに注目すると共に、自分の年金がどの様な状況なのかを把握しておくことはとても重要です。
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