世界一幸福な子供を育むオランダの「イエナプラン教育」とは

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1.世界一幸福な子どもたち

ユニセフが発表した『先進国における子どもの幸福度』調査で、オランダは2007年、2013年と連続で総合1位になりました。

さらにWHOによる『子どもの健康行動調査(2005-6年)』でも、「生活に満足している」や「父親になんでも相談する」の項目で41地域中1位となっています。

 オランダの子どもが幸福を感じる背景には、家族の暮らしを大切にする労働環境や、子どもの自尊心を高める学校教育があります。子どもと過ごす時間を増やすために、仕事をパートタイムに変える親も少なくありません。

1996年の労働時間差別禁止法によってフルタイムとパートタイムの賃金・社会保障が平等になり、安心して働き方を選べるようになったのです。OECDによる『より良い暮らし指標』の「ワークライフバランス」で、オランダは2016年現在、38カ国中1位(日本は34位)です。

 学校では子どもの個性が尊重されます。オランダの憲法23条は教育における三つの自由(学校設立・理念・教育方法の自由)を保障しており、多様な教育が実現しています。

親は学区に制限されることなく、子どもの希望や資質に合わせて学校を選択できます。校風や授業が合わない場合は転校もでき、子どもが幸せな学校生活を追求するための体制が整っています。

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2.子どもが主体のオルタナティブ教育

 

学校設立の自由が憲法で保障されているオランダでは、200人の子どもを集めれば誰でも自由に学校を設立できます。

教育理念・方法の自由も保障されているため、各々の学校で個別のカリキュラムが採用され、オルタナティブ・スクールも広く普及(全体の学校の一割)しています。

オルタナティブ教育:公立や私立学校と比較して、柔軟性のある教育プログラムを持つ学校

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オルタナティブ教育では子どもの能力を引き出すために、自発的な好奇心や探究心が重視されます。

教科書中心の授業や、成績による区分けは行いません。

子どもたちは試験で確認される知識のみを習得するのではなく、自律性や協調性、創造力や責任感など、実社会で生き抜くため力を養います。オランダのオルタナティブ教育の中から、最近日本のメディアにも取り上げられるようになったイエナプラン教育をご紹介します。

3.イエナプラン教育

イエナプラン教育とは?

1923年にドイツのイエナ大学の教育学教授だったペーター・ペーターゼンにより、教育実践を通した研究として始められました。

子どもたちを異年齢学級に編成するのが特徴です。

戦後の東西ドイツ対立やペーターゼンの早逝により、ドイツ国内で発展を遂げることはありませんでした。現在、イエナプラン教育が最も盛んなのはオランダです。1962年に初のイエナプラン校が創立されたことを皮切りに、教育理念・方法の自由を謳う教育改革の流れに乗って順調に普及しました。

現在ではオランダ国内に約220校のイエナプラン小学校があり、数校の中等学校もあります。

イエナプランの5つの特徴

①異年齢学級

「根幹グループ」と呼ばれる学級は、3つの年齢の子どもたちによって構成されます。

子供たちは卒業までの8年間、三段階の根幹グループの中で年少・年中・年長を繰り返し経験します。教室内ではさらに56人のテーブルグループになり、3学年の子どもたちが一緒に勉強します。

自主学習で分からないところを教え合ったり、メンバー全員で課題に取り組んだりすることで協働の精神を養います。学級担任の教員はグループ・リーダーと呼ばれ子どもの活動をサポートします。

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②リビングルームでのサークル対話

教室はリビングルームのような快適な環境になっています。

子どもたちが相談してインテリアを整え、自分たちの暮らす空間に対する責任感を身につけます。各教室には、皆で車座になって話し合う「サークル対話」のためのスペースがあります。

「サークル対話」では、用意されたテーマについての議論や、自由作文の朗読などが行われます。人前で話しをすることに慣れ、異なった意見を受け入れたり、自分の意見を組み立てたりする能力を伸ばします。

③循環的な時間割

時間割は週の始めに子どもが作成し、一人ひとりが違う課題を、違う方法・場所で学習します。

自分自身で立てた規律に従って行動する責任感や、自律の精神を養います。

時間割は教科毎ではなく、「対話→仕事→遊び→催し」の、4つの基本活動を循環的に行います。

「対話」は学級全員による「サークル対話」、「仕事」は自立学習または共同学習、「遊び」はダンスやゲーム、演劇作りまで様々です。年中行事や誕生会、ミニ学芸会などの「催し」では、仲間と喜怒哀楽を共有して共同体意識を育みます。

④「学ぶことを学ぶ」ための総合学習

算数、社会など教科の区別をなくし、「ワールドオリエンテーション」という総合学習を行います。

子どもの問いを出発点にして、答えを探すための手順を話し合いながら計画的に学習を進めます。教科書に載っている出来合いの答えを学ぶ画一的教育法とは正反対の学習方法です。年間およそ89つのテーマを決め、学校全体で同じテーマに取り組みます。

思考力や創造性を高める学習としてイエナプラン教育の中核に据えられています。

⑤違いと共に生きる

インクルーシブな教育を目指し、子ども一人ひとりの違いを個性として尊重します。

社会で生きるということは、年齢差や能力差、価値観や倫理観の違い、異なる文化や民族など、様々な違いを受け入れ尊重するということです。学校は社会の反映であり、子どもたちは互いの違いに対してどう関わるのかを学びます。イエナプラン校では障害児や社会的・経済的ハンディキャップを持つ子どもたちを積極的に受け入れています。

4.子どもを幸福にするイエナプラン教育、その背景にあるもの

①教員の養成システム

教員はきわめて重要な役割を担います。学校全体の活動を教員全員で話し合い、保護者とも協力関係を築きます。

クラスルームでは単なる知識の伝達を越えて、子ども一人ひとりを注意深く観察し、その欲求に沿って最適な学習方法を提供します。

「子供が才能を伸ばせるかどうかは、教員の能力によるところが大きい」と、多くの親が指摘しています。オランダでは1970年代よりイエナプラン教育のための教員養成コースや、現職教員のための研修が実施されています。

②教育法の探究

イエナプラン校は新しいカリキュラムや教材の開発など、教育内容の刷新にも力を入れています。

1920年代にペーターゼンにより考案されたコンセプトは、時代の要請に応じてたゆみなく刷新されています。最近では小学校の教育実践を基に、中等教育のビジョンの開発も進められています。

研究についてのニュースは、イエナプラン協会の機関誌「メンセン・キンデレン」で発表されています。

③オルタナティブ・スクールの連携、教育政策への提言

オランダのオルタナティブ・スクールはそれぞれ、教育法の改善や教育活動促進のために協会を設立しています。

それら複数の協会を統括する協同組織もあり、国家の教育政策について提言するなど教育制度にも大きな影響を与えています。オランダでは教育制度改革が日本と比べると比較的柔軟に行われ、常に新しい教育方法が論じられ、取り入れられています。 

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5.日本のイエナプラン教育

 ペーターゼンの著作『小さなイエナプラン』が日本で紹介されたのは、校内暴力やいじめが社会問題化した1980年代 のことです。

『学校と授業の変革:小イエナ・プラン(三枝孝弘、山崎準二著訳)』が1984年に明治図書出版から刊行されました。

そこから20年ほどの間を置いて、教育研究者リヒテルズ直子氏の著作や講演活動により、オランダにおけるイエナプラン教育が周知されるようになりました。2010年にはリヒテルズ氏を代表として「日本イエナプラン教育協会」が設立されています。 

冒頭で触れたユニセフの『先進国における子どもの幸福度』調査で、2007年にオランダが総合1位に輝いたことをきっかけに、オランダのイエナプラン教育はメディアでも注目されるようになりました。

憲法で保障された教育の自由や、小学生が自ら留年を希望できる制度など、日本とは全く異なるオランダの教育制度にも関心が集まりました。

現在の日本では、学校教育法等の法的根拠を有さないイエナプラン校は無認可校となってしまいますが、日本教育界の抱える不登校や学級崩壊、いじめといった問題に向き合う際、イエナプラン教育から学び得るものは多いはずです。

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6.長期的・多面的な教育制度改革にむけて

学力偏重からの脱却が声高に叫ばれる日本とは対照的に、昨今のオランダでは学力向上にむけた教育制度改革が進められています。

2000年より3年毎に実施されている『OECD生徒の学習到達度調査』において全科目のスコアが軒並み低下傾向にあり、学力低下が懸念されたためです。

世界同時金融危機やユーロ危機によって国の財政赤字が増大し、教育費も削減されました。数年前からは小学校卒業年生の全国統一試験が義務化され、試験結果が学校単位で公表されています。

 一方で日本の学力は、OECDの同調査で高水準を維持しています。

実はユニセフの『先進国における子どもの幸福度』調査でも、「教育」の分野ではオランダを抑えて1位でした。学校・地域間の格差を是正し、教育の機会均等を保障してきた教育行制度がもたらした好結果です。

日本の子どもの幸福度が低いとされた原因は、先進国の中でも深刻とされた「子どもの貧困」でした。子どもの幸福には教育だけではなく、健康と安全、物質的豊かさ、家族、環境など、多様な要素が影響しているのです。

 日本では1990年代以降、中央集権的・画一的な教育制度の見直しが進められ、現在では教育特区と呼ばれる地域発信の教育改革も行われています。

文部科学省によって発表された、大学入試センター試験の廃止も記憶に新しいところです。

海外の優れた教育政策を受容する柔軟性や、グローバルな人材育成のための国際的視野も必要ですが、一番大切なのは、成果を挙げた政策に誇りを持ち、日本の社会状況や文化、価値観に合わせた独自の教育理念を掲げることではないでしょうか。

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まとめ

子どもの人生や国の将来を左右する教育改革は、一朝一夕には成し遂げられません。

教育は日々進化するものですし、子どもたちの幸福の理由もひとつではありません。理想的なワークライフバランス支えるワークシェアリング、子どもを一人の人間として尊重する親と教員、環境や心の豊かさを大切にするスローライフ、住宅地のあちらこちらにある公園で元気に遊ぶ子どもたち。

オランダの生活の様々な場面に、子どもたちの笑顔の理由が見えてくるかもしれません。


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