配偶者という正式身分があれば、フランスで事実上の永住権をもらえる可能性大いにあり。
が、フランスお役所的な気分屋対応に根気よく合わせるゆとりを持って、ひとつひとつ進む心構えが必要です。
筆者は12年フランスの田舎で暮らし、実感したフランスのばらつきだらけのお役所手続き。
その中でも、フランス人の配偶者として最初の10年滞在許可証取得を目指す日本人が戸惑いやすい共通の注意点をまとめてみました。
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1. まずは外国人として一年フランスに滞在できる許可をもらいましょう
両国において配偶者の立場になるということ
配偶者、つまり日本とフランス双方において民法上の婚姻関係にある人についてここではふれます。(フランスの事実婚方式については除きます。)
日本またはフランスの役所にて公的な婚姻関係を結んだ夫婦のフランス暮らしの第一歩は、「フランスに一年住んでもいいよ」のお墨書きをもらうこと。
すでに日本の役所で婚姻届を提出し、フランスの役所にも届けを済ませて、晴れて公式に婚姻関係にある夫婦となっておくことが必要です。
フランス人配偶者側の出生地(遠隔地であっても)から取り寄せが必要な書類などもありますので、双方のスケジューリングが非常に大事です。
ゆとりある日程を組んで双方が動きやすい状況にしておくこと、両家の家族が取り寄せなどに協力してくれるとスムーズです。
公的な婚姻が済んだ後にフランスから公式に発行されるのが
「家族手帳」(Livret de famille)
です。
世帯の戸籍に類するような内容を手帳型にしたような、永久保存版の仰々しいデザインの冊子です。
各人の生年月日や出生地、双方の両親の氏名、日仏どちらかでの先に婚姻届を出した方の日付が入ります。
それが全て役所の人の手書きであることに驚かされ、フランス生活への実感をともなうことになります。
家族手帳の注意点
フランスの公務員さんまたは大使館員さんが1ページずつペンで記載してますので、絶対に記載に間違いが無いかどうか念入りにチェックしましょう。
フランス国籍者のパスポートの申請内容ですら、発行時には数字を間違っていることがあるのがフランスのお役所仕事です。用心するに越したことはありません。
この家族手帳は今後ずっと保存する必要があります。子供が誕生したらそこに一名、また一名と役所で書き足されることになります。
今後フランスでの住居の借主や家主が自分でない場合は、配偶者と同一住所の同一世帯であることの証明としていろいろな手続きに必要になります。
絶対に紛失してはいけません。
これでフランスにおいて二人は結婚済みの関係、という証を得られたことになります。
配偶者ビザをフランス大使館で取得
双方への公式な婚姻を済ませた日本人配偶者は、長期滞在の許可を渡仏と同時に申請する前提で発行される「配偶者ビザ」を取得する必要があります。
配偶者ビザを得ればこれでずっと住めるぞ、ではありません。
あくまで配偶者としてこれから一年フランスに住まわせて下さいと頼むために必ず必要になるのが配偶者ビザです。
フランスに何らかの理由で在住している方でも、一度日本へ戻り、全ての必要書類を揃えて在日フランス大使館への申請が必要になります。
ビザについては頻繁に制度の変更がありますので、フランス大使館のホームページをまめにチェックしてみてください。
(結婚のパターン次第ではビザ申請よりも前にフランス大使館へ手続きに出向く必要が出てきます。大使館の入口が見慣れた光景になるかも知れませんね。)
現在各種ビザについてはインターネット環境を整えて日本のフランス大使館にネット申請することが求められています。
フランス大使館はビザなどの手続きについて個別の電話相談、FAX連絡には応じません。
日本語での電話問い合わせについてはさらに固く門戸を閉じているのが通常モードです。
当然アポイントなしでは訪問しても一切取り合ってはもらえません。
つまり電話にも出ない、訪問に応じない、これがフランス生活疑似体験ともなります。
日本の役所とは全く対応が異なりますが、驚かないで慌てず、大使館へのメール問い合わせまたは、SNSなどでも個別のイレギュラーな悩みや疑問は検索してみてください。
受領スケジュールなどのことで似たような疑問を抱えて困っている人や解決できた人が見つかる可能性があります。
結婚手続きからビザ取得まで、カップルお二人で余裕を持ったスケジューリング、休暇取得、各種証明書の取得などを計画されることをおすすめします。
仮に日本のどこに住んでいても、フランスのビザを取り扱うフランスの公的な部門は東京都港区広尾の在日フランス大使館のみです。
日本人の問い合わせには答えないけれど、自国民であるフランス人の国際電話での相談には応じることもあります。配偶者との二人三脚でひとつずつ疑問を潰していきましょう。
同じ状況にある日本人を見つけておくといろいろ心強いかもしれません。
大使館からは最低限度の対応の洗礼を受けますが、この段階でショックを受けない図太さが必要です。
できあがった配偶者ビザはパスポート内のページにシールのように貼り付けられており、空港の入国審査官がパスポートと同時にチェックできる形式です。
2. ここからフランス生活!いざ渡仏
配偶者ビザを持って渡仏
パスポート内にめでたく配偶者ビザを手にしたら、通常は移住のために片道航空券で晴れてフランスへと渡ることになります。
帰りの航空券を所持していないことについて、日本の空港でビザや滞在許可証などの提示が必要になることもあります。各航空会社でそのような決まりごとがありますので、素直に提示しましょう。
フランスに着いたら、すぐに手続きの準備開始!
さて、フランスに着いた日本人側はゆっくりしている暇はありません。すぐに次の手続きの準備です。
いよいよ1年滞在許可証の申請です。
繰り返しますが、ビザと滞在許可証は別物です。
入国から三ヶ月以内にお住まいのフランス県下の移民局との手続が必要になります。
期間内にできなかった場合は事実上、不法滞在者の扱いになります。
ビザのみで外国籍者がフランスに滞在できる期限は決まっていますので、早めに動くのがベターです。
所定の書類に添付する証明書などは県や担当者によっていろいろ差があるのもフランス方式です。
- 法定翻訳をつけろ
- コピーではダメ
記載にないものをあれこれ要求してくることもあります。
地元の役場で受け付けるところもあれば、大きな都市の役所や移民局に直接赴かないとならないところもあります。
全国的に統一された基準が無いのか、受け付ける側の公務員も誰にも正確なことがわからないのではないか、と思えるバラバラな現状です。
ビザ所持者が滞在許可証申請時に必要な基本書類や書き方は日本のフランス大使館のHPにも記載されているので目安としてください。
あくまで滞在許可証の管轄は移民局であり、フランス大使館ではありません。
最終的には現地の移民局が要求する書類や手続に従ってください。
1年滞在許可証の受け取りまでに必要な面談と健康診断
さて、必要書類提出の後、移民局の面談と公民講座という内容の2日ほどの講習を受けなさいとの呼び出し状が自宅に届きます。
その際にフランス語のレベルチェックや、最小限の健康診断を受けます。
- 医師による問診や胸部レントゲン
- 破傷風や麻疹など最低限必要とされるワクチン接種記録確認(日本の母子手帳やその他公式な記録があるならそれも持参した方が助けにはなります)
- 避妊方法の知識の有無の確認
- 外国籍者が女性の場合は低容量ピルの服用の有無確認
なども県によってはあり得ます。
予想外の踏み込んだ質問に日本女性なら仰天するかもしれませんが、ここで不躾な、と苛立ってはいけません。
全ての移民に対して同じ対応を取っているというのがフランス移民局の表向きの姿勢です。
特に発展途上国の多いアフリカ大陸、アジア出身者へは念入りにリプロダクティブ・ヘルス/ライツについてどの程度の認識があるか確認しており、日本人女性もその例外ではないようです。
実は出身国によってはそのような基礎的知識を持たない女性も少なくないのが移民大国の現実です。
お国柄または宗教上の理由で、避妊の原理や必要性すら学んだことのない女性たちに対し、人権保護的な見地から啓蒙する機会もフランスではきちんと用意されています。
公民講座の内容も主に先進国出身者向けとは思えない、基本的な人権意識や社会保障制度の知識、フランスのざっとした歴史や現在の政治制度についてのお勉強です。
レベルは、日本人が中学で学ぶような民主主義と社会保障のいろはという印象です。
冷静に真面目に受講して、今後の手続きに必要な段階をこなしていきましょう。受講修了証明は次回の滞在許可証更新に必要なのできちんと保管しましょう。
移民局の面接官との面談も、この公民講座もフランス語で行われます。
親切な面接官や公民講座の担当者は片言の英語も織り交ぜてくれることはあります。
フランス語が初級者でもフランス人の付き添いは認められませんでした。一人で勇気を出して挑みましょう。フランス語の超初級でも愛想よくいきましょう。
フランス語も学びたいし、文化も社会のことも吸収するよ、というやる気を見せて気さくに挑むことが良いでしょう。
なお、ここで面接官にはフランス語のレベルをチェックされ、移民向けの無料のフランス語講座受講の必要性を判断されます。
一定レベルには未達と判断されるとフランス語講座受講が必須とされ、この講座に朝から夕方までどっぷり通う必要が出てきます。もちろん授業では出欠も取ります。
フランス語講座の受講とその後の試験が必要と言われたら・・
必要な通学の期間(受講時間)はそのレベルチェックで判断されますが、途中で上達が早いと判断された場合は予定より早く公的な一斉試験を受け、合格すれば受講修了も可能です。
実は一年目の許可が出た後の二年目の滞在許可証申請にこの試験の合格証提示が必要です。
とにかく早く合格して安心して一年目の滞在をするのがお勧めです。
コツコツ勉強していれば、日本で高等学校や大学を出ている人であれば100点満点の98点くらい軽く取ることも可能な初歩レベルです。
試験は大教室で一斉に行われる筆記と個室で一人ずつ行われる口頭の二種類。口頭の試験は本当に雑談タイムみたいでした。
日本での学歴や最終職歴と専門分野を確認され、どんなお仕事?という質問でした。
そこから流れで脱線し、単なるおしゃべりで終わった感がありますが、それがすごく良かったわと試験官に言われました。
この当時は理解していませんでしが、フランスにおいては初対面の人と臨機応変に雑談をする能力、ちょっとした図々しさ、物怖じしなさがすごく大事なことだったのです。今になってそれを痛感します。
コミュニケーションを積極的に取ろうとする姿勢を持っていることは、フランスでマイナスに働くことは全くありません。話の内容が地味でも派手でも、発音が良くても悪くても。
そのような力がフランスで生きる上で全ての基礎になりますし、どれだけ周囲と円滑にフランス式に積極的に関わることができるかはその後の生活の質や精神状態に直結していきます。
フランス語能力のテストというより、あの試験官はこの受験生がフランスに溶け込んでフランス式に円滑に生きていけそうかを判定してたのかなあと今は思ったりします。
とにかく臨機応変に雑談できる能力がある人はフランス生活でとても有利ですよ。
必ず強みとして活かしてください!
フランス語講座はどんな雰囲気?
移民向けフランス語講座は無料ですので、フランス語試験に合格した後も上限時間いっぱいまで受講を続けることはできます。
これも現場判断、県(移民局)の判断、またはどのくらい受講待ちの移民を抱えている県なのかで対応が変わってきます。
ちなみに受講中に講座内には妊娠した若い女性がたくさんいて、途中から来られなくなった場合は個別相談で、出産後に受講再開ということもできるようです。
これもまたヨーロッパらしい移民事情ではあります。
自分の通った講座には何十人という生徒がいましたが、北アフリカ出身のイスラム教圏の衣装を着た女性がほとんど、例外は自分を含めてアジア系三人、ロシア人が一人、パレスチナ難民が一人、という状況でした。
まさにこれが今のフランスのリアルな姿です。地方においても圧倒的に移民で多いのが北アフリカはマグレブ三国と呼ばれる、アルジェリア、チュニジア、モロッコ出身の方達です。
もともと歴史的背景によりフランス語を使う土壌もあるため、圧倒的にフランス語を話すのは上手です。
なぜ彼女らは受講が必要なの?というくらい流暢でも、書くことができないという女性が多くて驚かされました。
生徒には10代20代の既婚女性が多く、途中からお腹が大きくなり、受講を一時中断する人が次々に出て来ました。
さてここで補足事項ですが、受講が必須と判断された場合、田舎在住の場合はすぐに必要となるのは通学の足。女性に多いAT限定免許証の方は日本で早めに限定解除講習を受けて書き換えておくことを強くお勧めします。
フランスの運転免許証は日本のものを役所で交換するだけで得られます。日本人は教習所へ通学する必要がなく、日本での免許証の内容がそのままフランスでの免許証になるだけです。
フランスではAT車の選択肢がとても少ない中で、フランス語初級者または全く話せない場合、すぐにフランス語講座を受講せよ、という流れになります。
結婚を前に、やるべき準備はいっぱいで大変ですが、日本でMT車免許にしておくことをお勧めします。
晴れて一年目のフランス滞在許可証の受け取り。が、驚きの発行日!
このような流れを経て、渡仏、滞在許可証申請から数ヶ月または一年近くかかって、やっと
「正式な滞在許可証が発行されたので取りに来て」
という召喚状が送られてきます。
それまでの期間、ビザも切れてしまったらどうするの?という疑問をお持ちのみなさま、安心してください。
レセピセという、滞在許可証申請時に発行された申請書類の受領証明代わりのもので不法滞在者になることは避けられます。
正規の1年滞在許可証(Carte de sejor temporaire) を受け取ったら、まもなく二年目の申請をせねばならない日付がかなり間近に迫っていたりするのもフランスらしいスピード感です。
印字されてる発行日から随分日が経ったものを受け取るのはフランスのおきまりパターン。ここでイラッときたり、慌てたりしないで、冷静に発行日から一年を過ぎないように、滞在許可更新の申請をしましょう。淡々と!
この繰り返しが通常は計三回です。
つまり三年間です。
試験に合格してもフランス語講座に上限時間まで通いたい方は通うもよし、民間のフランス語講座に移るもよし、労働許可は滞在許可証発行時点で出ていますので仕事を探すもよし。(移民局やフランス語講座の管轄で求職の相談受けてくれます。)
多くの日本国籍者の場合、警察に記録が残るようなよほどの素行の悪さでもない限り、三年は滞在許可更新は事務的、機会的に受理されるのが一般的です。
更新の申請書類の提出先は都市部と田舎でも異なったりします。地元の役場で受け付けているところもあれば県庁や警察署まで申請に行きなさいと言われる場合もあり、これは必ず県の管轄にどこに行き、何を提出するべきなのか確認が要ります。
90数県あるフランスで、とにかく対応があちこちでバラバラです。
三年もこの暮らしをしていると、大抵の日本人はだんだん生真面目な感覚が麻痺してきて、いいかげんな役所ペースに驚きもしなくなるでしょう。これも不思議なフランスマジックです。
3. フランス生活も三年が過ぎたら
四年目以降の滞在許可証へ
さて三年目で必要なのは四年目以降の10年滞在許可証を申請することです。
この手続きがさらっと終わる日本人もいればそうでない日本人もいます。
ここで日本人配偶者が10年の許可証の発行を拒否されたという例を聞いたことはないのですが、そのプロセスでかなりストレスが溜まった実例とそうでない実例が存在することだけは記しておきます。
また住む場所によって申請先や必要書類にある程度ばらつきがあることは今までの三年間と同じです。
一つ決定的に異なったのは、地域警察、またはGendermerie(国家憲兵隊というフランス軍管轄にある、地方警察の役割を担う組織)が移民の滞在継続可否を判断するプロセスに関わってくることです。
要するに治安の維持を担うプロの目から見て、これから10年もの滞在許可をポンと与えるにふさわしい、実害のない移民かどうかを判断するプロセスが加わるということになります。
いざ警察面談へ
(※私が召喚された国家憲兵隊の分署をここでははわかりやすく「警察」と表記します。)
まず召喚状(convocation)の日付、または事前に自分で警察に予約した日時に管轄の警察署へ。(これも地域によって担当部門が異なります。)
通常は夫婦で出頭することが求められます。所要時間は3、4時間以上を想定してください。
地方の小さな警察の分署の場合、通常業務の合間縫って担当者が夫婦に対し面談を行いますので、さらに時間通りに進みません。
警察分署の受付で待たされ、夫婦同時の軽い面談の後、次は一人一時間超の個別面談が待っておりました。
夫婦一人ずつしか入れない部屋での面談です。もう一人は別室待機です。これがまさに警察尋問風です。
結婚から(当時)はや四年、その前の交際期間のできごとまで個別に二人に対し、同じ質問をするのです。まるで重要参考人への取り調べ!
「2005年の5月の旅行先は?行き先を順番に述べて。」「その際東京から京都まで何で移動した?」「奥さんの両親にご主人が初めて対面したのは何年の何月?」「ご主人の手取り月収はおよそ幾らか認識してる?」とこんな感じです。
あまりにも細かく、記憶も曖昧な過去の部分まで一人ずつ突いて来る質問に、途中から「ああこれは偽装結婚(Maeriage blanc)ではないかどうか、夫婦二人の証言の正確さを通して確認をしているのだな」と理解しました。
先に面談を済ませた夫と、次に面談に臨んだ私の証言が記憶違いによって食い違うと、警官は「ん?ご主人はそうは言ってませんでしたよ?あなた嘘ついてない?」と怪訝な顔で言ってきました。
警察にこんな根掘り葉掘り問い詰められるのは人生初めての経験でした。
この警察の対応もしかたがありません。現実にたくさんの外国籍者がEU国の滞在許可を得るために、お金を払ってでもフランス人をはじめEU国籍者と手を組んでペーパー結婚をすることが大きな社会問題になっているからです。
外国人に対しても、自国人に対しても、その疑いを消していくのも警察の大事な仕事です。
外国人である自分は「将来的にフランス国籍を取得する意思があるのかどうか」も確認をされました。その時はとりあえず「いいえ」と暫定的に回答しましたが。
夫婦二人とも無事個別面談を終えると、二週間以内に自宅への抜き打ち訪問をします、と言われ仰天。夫婦ともにぐったりとした疲れを感じながら帰宅しました。
警察官によるアポなし自宅訪問
いつ来るかわからない警察を待つ数日が過ぎたある日、本当に制服の二人組が警察車両でやってきて、インターフォンを鳴らしてきました。先日の面談の担当者とは別の人たちでした。
まさに警察!という車を門の前に停められて。
我が家で何かあったのか!?と近所の人がびっくりしてしまいそうな車両で来ました。
事前にインターネットなどで調べて、警察のアポ無し訪問の際には、夫婦の生活の実体がある家なのかどうかを判断するために、飾っている家族写真を見たり、収納の引き出しを開けて下着まで確認するなどのチェックが平然と行われると予備知識を得ていました。
そこで、気合いをいれて、引き出しも綺麗に整頓、両家の親族も一緒の家族写真も万全に飾って準備していました。
本当にそこに生活拠点を置いて、夫婦の実体があるなら、女性は勝負下着のようなものも備えておくだろうし、生活に要るものを全部そこに置くであろうという、いかにも警察らしい判断ポイントをしっかり自分なりに押さえました。
この際不平や愚痴を言っている場合ではないと悟りを開きながら。
実際にそのようなプライベートな部分まで抜き打ち検査をされたケース、自宅の場所を確認され、簡単な挨拶だけで終わっただけのケース、といろいろ周囲の実話がある中で、自分は最大限の備えを試みました。
米国の友人にそれを伝えると「フランス公権力は移民に対してそんな人権侵害を平然とするのか」と呆れられましたが、移民が警官に食ってかかっても外国人が得るものはありません。ここはじっと従順に要求に応じるしかないです。
さて実際の訪問ですが、飾ってある家族写真のチェックは予想通り行われました。
日本で撮ったプロによる和装の婚礼写真、フランスでの教会挙式の写真、結婚から2年後に生まれた幼い子供と日本の写真館で撮影したとっておきの家族写真も飾っており、それを見た警官は手元のチェックリストに一つずつ何かを書き込んでいました。
その際に再び「フランス国籍の取得を視野に入れているか」との質問も受け、また「いいえ」と適当に返しました。警官、またそれをチェックリストに記入。
さあ、他の部屋はこちらです、ご案内します、と言ったら、「本来はそちらも見せて頂くのですが、お二人の場合はもう結構です。」との一言で彼らはチェックを終了しました。拍子抜け。
でも「本来は」アメリカ人が仰天するようなプライバシーへの踏み込みを公権力がやっているのね、と。あらためてフランスってやっぱり手ごわいと思った瞬間です。
あとは軽く二人組警官との雑談タイム。
長くてしつこい質問の面談や、このような抜き打ち訪問を全ての外国籍配偶者に対して行なっているのかを(その場の空気に乗って)お気楽に質問したところ、そうです、との返事。
実際は内容の差はあるかもしれないけれど、表向きはやはり外国人に対して差のない扱いをしているとの返事で、そのまま二人はニコニコと撤収していきました。
4. これがいわゆる永住へのお墨付き
そこから二ヶ月ほど待っていると
「マダムへ交付書面がありますので、村役場に取りに来てください」
との簡単な一枚きりのメモが我が家の郵便受けにぽろっと入っていました。
何この適当な感じ!と拍子抜け。
すぐに村の小さな役場に出向いたら、念願の10年滞在許可証(Carte de Resident)が届いてました。
晴れて10年カードだ!とホッと安堵したのは言うまでもありません。
(警察での面談が厳しかった分、実物を手にしたときはシャンパンでも開けて乾杯したくなりました。)
滞在許可証更新申請時に受け取る書類の受領証を臨時の身分証明として携帯しているのですが、そちらは役場に返納します。
注意点:
ここで注意点ですが、臨時の身分証明しか無い期間は原則的に日本への帰国などは出来ません。
申請中は旅行や帰国の計画などは慎重に立ててくださいね。
この10年の有効な滞在許可証はもちろん労働の許可も含んでいますし、選挙権以外の様々な公的権利の保障をするものです。
常にこのカードがフランス国籍者同様のIDカードの役割を果たします。内容は違えど、カードのサイズもフランス人と同じもの。
日常の外出で滞在許可証、運転免許証は常に携帯していると言っても過言ではないです。(とは言え、提示を求められたのはこれまでで空港の入国審査、羽田でのフランス行き片道航空券チェックイン時、それから日本発行のクレジットカードをフランスで使用する際くらいです。)
この10年滞在許可証は期限内にまた次の10年へと更新申請をすることになります。
10年も年月が経過すると、また管轄、書類の受付場所、必要書類などが気まぐれに変わりそうですが、とにかくこの厳しいチェックを経たあとの10年単位の更新はもっと静かで事務的な流れです。
言葉は矛盾してしまいますが、実質これが更新制の「フランス永住権」ということになります。
諸外国における永住権という概念とは少し形態が異なっていますね。
現時点のフランスでは、10年おきの更新は、通常は日本人にとってそこまで難しい手続きではありません。
(配偶者への滞在許可証ですので、次の更新まで結婚生活が円満に続けば、が前提ですが。)
5. 例外的取り扱いを受ける外国籍者について
日本人である自分たちが滞在から三年もかかってからやっと10年滞在許可証に挑戦できるのに、移住して一年ちょっとで10年の滞在許可証を得られる国の人たちがいます。
同じ移民の身分なのに、とそれを知ってショックを受けるかもしれません。
同じ時期にフランスに来た同じ移民のはずなのに、この人たちはもう10年の滞在許可証を得ているのに私はなぜダメなの?と。
フランスに移り住み、他の国籍者と接点ができてくるとふとしたときにそれに気づかされる可能性はあります。
例えば、フランスでの移民のマジョリティであるアルジェリアの皆さんです。
私が三年も一年更新の滞在許可証しかないことを知ったアルジェリアの人から「なぜフランス人と結婚してるのに一年のカードしか出ないの?」「アジア人って可哀想ね、貧乏な国出身だから許可も出にくいの?」「あなた何か悪いことでもしたの?」とかびっくりワードを投げかけられることがありました。
でも、ふふふ、可哀想でしょ?けど違うのよ、とさらっと笑顔で流してください。
彼、彼女たちは自分たちが逆にフランスで特別な立場にあることをあまり認識していないだけです。この滞在許可年数や手続時に納付する手数料の差はフランスによる日本人軽視であるとか、差別といったことではありません。
むしろ、日本国籍者がたどる手続きや所要年数の方がEU圏外の外国人としては一般的です。
フランス移民局の公式ホームページでもはっきりとアルジェリア国籍者への扱いが他と異なるのが見て取れます。それだけのことです。
差をつける理由はそこには記されておりませんが、アルジェリアとフランス間での複雑な歴史的政治的背景があるためです。
移民局から日本人が冷遇されているわけではないので安心してください。
「早くもらえていいわねえ。」とアルジェリア人には羨んだ反応をしておくとついでに会話も弾みます。
どんなきっかけでも、話し相手が増えることはフランス社会を知るために最良の入り口になります。外国籍の友人を作っておくことは必ずその後のフランス生活の糧にもなりますしね。
移民の多数を占めるアルジェリア出身者と仲良くなることはフランスの移民文化を理解する一歩でもあります。
6. 面倒な手続きも会話のネタにしてしまおう
フランス人の配偶者として、フランスに生活拠点を置こうという予定がある方は、
「焦らない、イラつかない」
「どんと構える」
「いい加減な役所の対応やバラバラな指示に根気よく従う」
「わからないことは何があっても調べるか問い合わせをしてひとつずつ解消する」
「フランス役人に対して怒ってもしょうがない」
「フランス国籍パートナーには全力で協力してもらう」
「担当者には謙虚に接して、下手でもフランス語でコミュニケーションを取る意欲を見せる」
「問題はいつかは解決するから気長に待つ」
「フランスの書面と役所相手に苦戦する日本人はあなた一人じゃない、仲間がいっぱい」
このようなことを忘れなければ役所や警察相手に苦戦しても、自ずと事態は前へ進んでいきます。
最初の三年、そして四年目までの手続きを終える頃には、フランス社会を回す公務員という人たちの仕事パターンがすっかり理解でき、そのペースに合わせることができる精神的ゆとりが生まれてきます。
同時に都市や県による手続きの差異はあれど、根幹にあるフランス行政の同じようなアウトラインが見えてきます。それがこれからどのようにこの国で生きていくか、どうすれば上手く渡っていけるのかということのヒントにもなり得ます。
「行政 vs 一般市民」という構図は、フランス人のおしゃべりタイムに欠かすことのできない盛り上がりネタ。愚痴は特に盛り上がります。
外国人だって一緒に混ざってワーワーと愚痴っぽい話題をワイン片手に楽しんでしまいましょう。
フランス人配偶者として、10年滞在許可証を得るまで
3年(毎年更新)+10年の滞在許可証を得るまでの、手続きあるあるびっくりポイント、いかがでしたでしょうか。
フランス人と結婚の話が持ち上がっている方は、ぜひこの一連の流れに身を任せて、いや自ら泳ぎきって、フランスに長期の生活拠点を置いてみてはいかがでしょう。
静かな田舎住まいでもにぎやかな人間模様や助け合いの精神に満ちていて、毎日が怒涛のように過ぎていきます。
フランス人の意外なほどの気さくで優しい気持ちにどれだけ外国人として救われたことか。感謝はつきません。
尽きることのないおしゃべりパワー、笑顔、食への貪欲さ、心やさしき素朴なフランス人たちに囲まれていると、滞在許可証の手続きでちょっと困ったり戸惑ったりしてもお釣りがきてしまうような幸福感に包まれます。
子供が産まれたら、社会でみんな一緒に子育てしていくような大きな包容力もあります。
楽しいことも辛いことも、日本と同じようにありますが、フランスでの幸せの尺度は日本のそれとも大きく違います。
ストレスを上手に逃してマイペースに生きたい、いつもたくさんの人のあたたかさに触れ合っていたい人にぴったり。
フランスはちょっとすましたイメージと裏腹にそんな愛すべき国なのです。
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