カナダへの移住を考えるとき、近い将来のことはすぐに思い浮かびますが、なかなか数十年先のことまで考えが及びにくいですよね。
ですが仕事を退職したあと、どのような老後の生活を過ごすかについても知っておく必要があります。
カナダに移住した場合の老後の過ごし方とは、どのようなものになるのでしょうか。
今回は日本と比較をしながら、カナダ移住後の老後についてご紹介していきます。
①カナダと日本の年金制度比較
老後の生活を支える財源は、それまでの貯蓄と国から支給される年金ですよね。
カナダにも日本のように年金制度があり、条件に応じて一定額を受給することが出来ます。
簡単な説明ですと、カナダには税収を財源にするOAS年金と、就労期間中に自身が払ってきた保険料を財源とするCPP年金の2種類があります。
日本にも国民年金と厚生年金の2種類がありますが、受給者はそのどちらに対しても支払いをしているのに比べ、カナダのOAS年金は年金の支払い有無に関わらず対象者は受給可能です。
この点において、カナダの年金制度では、高齢者への最低限の生活保障がされていると言えるでしょう。
では次に気になるのが受給額。一体いくらくらいもらえる?
この点ですが、ここでは日本の国民年金とカナダのOAS年金の受給額を比較してみます。
カナダのOASの毎月の受給額は$551.54、日本円で約5万円ほどです。
ただしこれは満額支払い時の場合なので、カナダ国内在住年数が40年未満の場合は、”50,000円×(居住年数/40)”ということになります。
一方、2020年の日本の国民年金の満額支払い時の受給額は約6.5万円。日本の方が少し多いことがわかります。
ただし繰り返しになりますが、日本では国民年金に対して毎月の支払いが必要であるのに対し、カナダのOASは税収を財源としているため、保険料の徴収がありません。
受給対象者であれば、申請をすることで誰でも受給ができる年金です。
なおカナダの年金制度では、上記のOAS年金にCPP年金が上乗せされ支給されます。CPPの受給額は各自の収入や支払期間によって異なりますが、目安としては、”保険料を納めていた期間の平均月収の約25%”がCPPの受給額(月額)と言われています。
(65歳から受給の場合)自分が受け取ることのできるCPP目安額は、下記カナダ政府の公式サイトでチェックできます。
<Canadian Retirement Income Calculator>
https://www.canada.ca/en/services/benefits/publicpensions/cpp/retirement-income-calculator.html
なおカナダの年金制度については、より詳しくまとめたページがありますので詳細を知りたい方はそちらも参考にしてみてください。
関連記事:カナダの年金制度。受給条件や金額をわかりやすく解説
②カナダと日本の医療事情
続いて比較するのは、カナダと日本の医療事情についてです。
加齢とともに様々な健康トラブルが生じることは一般的で、病院に行く機会も増えることでしょう。
老後に備え、医療事情についても知っておく必要があります。
<ファミリードクターの存在>
カナダではまず、「ファミリードクター」と呼ばれる”かかりつけ医”の存在が大きくあります。
怪我や風邪をひいた場合、まずはファミリードクターの診察を受け、必要があればそのドクターから紹介状を書いてもらい専門医に診てもらうという流れです。
いわば、全ての症状の窓口になるのがファミリードクターです。
基本的には家族全員の主治医が同じであるため、過去の病歴やアレルギー情報など、患者の情報を一括管理・照合しながら診察を受けられるというメリットがあります。
一方でファミリードクターは実数が少なく、また患者数を制限することが許されているため新規の患者を受け付けていない場合がほとんどです。
またファミリードクターを持てたとしても、一日の診察患者数が少ないため、予約が数週間後になるというデメリットがあります。
ファミリードクターを持たない場合(または引越しなどで、ファミリードクターがいる土地を離れている場合)には、「ウォークインクリニック」と呼ばれる、誰でも利用することのできる街中の診療所を利用します。
誰でも気軽にかかることができる反面、常に混雑しているので待ち時間が長くなる傾向があります。
なおウォークインクリニックでは簡単な診察がメインのため、症状によっては総合病院への紹介状を書いてもらう必要があります。
<国民健康保険制度の比較>
日本の国民健康保険制度では、患者の医療負担額は以下の様に定められています。
3歳未満 |
2割 |
3歳~69歳 |
3割 |
70歳~74歳 |
1割(一定額以上所得者は3割) |
一方、カナダには「Medicare(メディケア)」と呼ばれる国民健康保険制度があります。
この保険に加入していれば、通常の外来診療や入院などに対する患者の自己負担額は一切ありません。
つまり大半の医療サービスが、無料で受けられるということです。(ただし歯科治療、処方薬代、特別な手術や治療、入院ベッド料、食費などを除く)
細かな規定は州ごとに異なりますが、手術や入院を含む多くの医療を無償で受けることができるのは非常に大きなメリットです。
特に健康トラブルを抱えやすい高齢者にとっては、限られた収入しかない生活の中、医療費を心配することなく通院ができるというのは大きな安心材料になっていることと思います。
医療制度についても別ページにて詳しくまとめていますので、気になる方はぜひそちらもチェックしてみてください。
関連記事:カナダの健康保険制度や実体験から語る病院・医療事情
③日本とカナダの高齢者福祉サービス
日本では近年、”少子高齢化”が問題視されていますが、カナダでも国民の高齢化が急速に進んでいます。
2016年のカナダ統計局による国勢調査では、「65歳以上の高齢者数が14歳以下の子どもの数を初めて上回った」と明らかにしています。
平均寿命が伸びる一方で、出生率が低位にとどまっていることが理由だと言われています。
こうした問題を抱えるカナダの高齢者福祉サービスには、どのようなものがあるでしょうか。
自分自身がその立場になるのはまだ先でも、高齢の両親を連れての家族移住などを考えている方などは、ぜひ今から知っておきたいポイントです。
一般的にカナダの高齢者の介護は、地域のCommunity Healthがその管轄をしています。
これは日本でいうところの保健所のようなところです。
ナースとソーシャルワーカーが高齢者の介護ニーズを審査し、介護プランをつくります。
在宅での介護が必要な場合は、このCommunity Healthからケアワーカーが派遣されます。
費用は世帯収入によって異なり、低所得世帯の介護費用は免除されることもあります。
ただし、一般的なケアワーカーの勤務時間は日中の数時間のみ。長時間の介護ケアが必要な場合には、個人的にケアワーカーを雇うか、介護施設への入居が必要です。
個人的にケアワーカーを雇う場合、依頼先によって価格は多少異なりますが、約25~35カナダドル/1時間あたりの費用見積をしておきましょう。
なおカナダの介護施設には大きく、以下の3種類があります。
■Independent Living
高齢者用のアパート・マンションで、バリアフリー設計になっています。
ここには介護職員はいないので、独立した生活のできる高齢者が入居します。Independent Livingへの入居費用は概ね実費です。
■Assisted Living
こちらは、Independent Livingよりも少し介護が必要な方が入居する施設です。
基本的なことは自分でする必要がありますが、食事の提供や、部屋の清掃、洗濯や入浴介助などを受けることが出来ます。
Assisted Livingには公的なものとプライベートのものがありますが、公的Assisted Livingに入居する場合はCommunity Healthの審査を受ける必要があります。
公的Assisted Livingの入居費は、世帯収入によって異なります。
■Residential Care
Residential Careは、24時間介護が必要な高齢者向け施設です。ケアワーカーの他、看護師も24時間在所してます。
公的Residential Careに入居する場合は、こちらもCommunity Healthの審査を受ける必要があります。入居費は、世帯収入によって異なります。
Assisted Living/Residential Careの月額の平均費用は約1,450~3,200カナダドルです。かなり価格幅がありますが、これは立地や部屋の広さ、提供されるサービスの違いによるものです。
参考までに、以下は2014年の各州のAssisted Livingの平均月額一覧です。
アルバータ |
$2,329 |
ブリティッシュコロンビア |
$2,021 |
サスカチュワン |
$2,536 |
マニトバ |
$1,815 |
オンタリオ |
$2,776 |
ケベック |
$1,497 |
ニューブランズウィック |
$2,395 |
ノバスコシア |
$2,707 |
プリンスエドワードアイランド |
$2,782 |
ニューファンドランド&ラブラドール |
$2,105 |
数は多くないものの、介護施設のなかには、日本語が話せるスタッフがいるところや、アジア食が選べるところもあるようです。
快適な老後生活を過ごすには、単に衣食住を確保するだけではなく、いかに安心できる環境でリラックスして過ごせるかも大切な要素です。
カナダでは高齢化に伴い、特に公的介護施設の入居待ちが続いている状況です。
まだまだ先のこと…と思うのではなく、こうした施設選びも念頭に入れながら、早め早めのライフプランを立てていきましょう。
④おわりに
カナダは州によって様々な規定が異なりますので、一概に言うことはできませんが、日本に比べると税収が高い分、様々なサービスを税金でまかなってくれるという印象があります。
特に、対象者であれば保険料の徴収なしに受給できるOAS年金の存在や、大部分の医療サービスが無料で受けられるという点は、収入が限られてくる老後生活を支える大きなポイントになります。
移住を考えるときにはどうしても目先のことばかりに意識を向けがちですが、カナダで生涯を過ごそうと決めている方はぜひ、老後生活のことまで目を向けた計画をしていきましょう。
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