カナダの公用語は英語とフランス語です。
よって、カナダ国内で販売されている商品は、お菓子から洗剤に至るまで全てのパッケージの表記は、英語とフランス語の2つの言語で書かれています。
また、カナダにある博物館、動物園、演劇などのパンフレットなどあらゆるものが、2つの言語で書かれています。
国土が広いカナダでは、日常使う言語が英語だけの地域とフランス語だけの地域と、英語とフランス語の両方を使う地域があります。
首都オタワでは、英語とフランス語の両方を器用に話す人が多く住んでいます。
学校や地域社会において、幼少期から自然と2つの言語を習得する環境が、オタワにはあります。
多言語を話せるようになる環境とは、どんな環境なのか、いくつか経験して驚いたことなどを含め、ご紹介させて頂きます。
なぜ首都オタワは2言語を話す人が多いのか?
理由1:職業上の理由。
首都オタワは、カナダの政府機関が集中しており、そこで働く人々は公用語の2つの言語を話すことが求められます。
政府機関で働いている人が多く住んでいるオタワは、カナダの他の地域よりも2つの言語を話す人が多いと考えられます。
そして、多くの親は、子供たちが将来、仕事上で重要なポストを得るためには、2つの言語を自由自在に使えることが必須であることを知っています。
そこで幼少期より子供たちに2つの言語を習得させるための教育を積極的に行っています。
理由2:地理的な理由。
オタワ(オンタリオ州)から橋を1本渡るとすぐにガティノ(ケベック州)に入ることができます。
オタワに隣接するガティノはフランス語を話す人が多く住む地域です。
フランス語を日常的に話す地域がすぐ隣にあるので、英語だけでなくフランス語を話す必要性があります。
オタワとガティノのそれぞれのマクドナルドに入って注文してみてください。
橋1本、車で約10分ほどの近距離で、お店の言語の対応が変わります。
お店に入っての第一声が、オタワでは「ハロー、ボンジュール」、橋を渡った先、ガティノでは「ボンジュール」に変わります。
ちなみに、注文はいずれの店舗も、英語でもフランス語でも通じます。
ただし少しだけ違いがあります。
オタワでは店員さんが英語で注文するお客さんには英語で、フランス語で注文するお客さんにはフランス語で対応してくれます。
一方、ガティノでは、フランス語の店員さんに、英語で注文すると、注文は聞いてもらえますが、返事の対応はフランス語のままです。
理由3.学校教育と地域環境
パブリックスクール(小中学校)では、英語とフランス語の授業が行われ、2つの言語を同時に学ぶ環境が整っています。
また、学校や家庭、地域社会において、自由自在に英語とフランス語を話す大人の中で子供たちは育ちます。
英語とフランス語が混在する日常が、自然と2つの言語を習得できる環境であるといえるでしょう。
学校での言語教育
1.毎日、2つの言語で流れる国歌
パブリックスクール(小中学校)では、学校が始まる時間に必ず校内放送で、1番が英語で2番がフランス語で国歌が流れます。
国歌が流れる間、子供たちは教室や廊下などその場に静止して国歌を歌います。
毎日のことなので、自然と2言語で国歌を歌えるようになります。
2.充実したフランス語教育
パブリックスクール(小中学校)では、主に英語で授業が行われるイングリッシュクラスと、主にフランス語で授業が行われるフレンチイマ―ジョンクラスがあります。
イングリッシュクラスでも、毎日1時間はフランス語の授業があります。
フレンチイマージョンクラスは、ほぼ全教科フランス語で行われるので、それに比べるとイングリッシュクラスは簡単なフランス語会話のレッスンのみです。
それでも、小学生にしては十分なフランス語の表現を覚えることができます。
子供向けの演劇で受けた衝撃
オタワに転居したばかりの頃、近所の方に子供向けの演劇のチケットを頂きました。
まだ子供たちは英語が聞き取れないので、ストーリーは分からないだろうと思いましたが、演劇なので見ているだけでも楽しいかもしれない、何事も経験だと思い、子供を連れて見に行くことにしました。
演劇は昼夜の2公演行われており、夜の部の会場は、子供を連れた親子でいっぱいでした。
演目が始まると英語でストーリーが展開していきました。
暗転して2幕目に入ると今度はフランス語でストーリーがはじまりました。
1幕目の英語で行ったストーリーをフランス語でもう一度やるのかと思いきや、1幕目のストーリーの続き、2幕目をフランス語でやっていたのです。
要するに、1幕目は英語、2幕目はフランス語、3幕目が英語、4幕目がフランス語と言語を変えてストーリーが進んでいくのです。
英語もフランス語も理解できることが当然とばかりに劇が行われていて、かなり衝撃を受けました。
我が家の子供たちは、英語も理解できないうえ、途中からフランス語になっているのも気づいているのかいないのか、もう訳が分からないまま、ステージで行われている動作だけを目で追っているような状態でした。
周りの子供たちはというと、英語とフランス語と言語がスイッチしてストーリーが展開することに慣れているのか、普通に演劇を楽しんでいる様子でした。
2つの言語で行われるレッスン
子供たちが初めて野球のトライアウトに行ったときのこと。
所属するチームが決まり、子供たちが監督の周りに集合して、監督が話し始めました。
監督はまず、自己紹介を英語とフランス語の両方で行い、そのあと、フランス語しか理解できない子は手をあげてと言ったのです。
英語が分からない子がいなければ、今後の練習は英語だけでやりますと。
幸い、チームには英語を理解できない子がいなかったので、その後の練習は英語のみで行われました。
オタワでは、家庭も学校もフランス語という子がいます。
よって、学校以外の習い事の場面では、大人が子供たちが理解できる言語を確認し、きちんと配慮して対応しています。
大変だったのは、野球の応援中にスタンドでフランス語を話すお母さんと英語を話すお母さんの間に座ってしまった時です。
二人とも英語もフランス語も理解できているので、一人はずっとフランス語で話し、一人はずっと英語で話します。
このフランス語と英語の会話に挟まれ、同時に両方の言葉を聞きながら会話をするのは、かなり混乱し野球どころではなかったのを覚えています。
子供たちが遊ぶ時
子供たちは学校から帰ってくると、公園や友達の家の庭で良く遊んでいました。
カナダの場合、12歳ごろまでは子供だけで行動させることはできないので、親は目の届くところでママ友と話をしながら子供を見守っていなければなりません。
子供たちの様子を見ていると、ほとんどの場合は英語で遊んでいるのですが、途中でフランス語しか話さない子が遊びに入ってくると、全員一斉にフランス語になります。
ここはびっくりするくらいの切り替えで、はじめてその光景を見たときは本当に驚きました。
子供たちは、学校で英語とフランス語を交えて学んでいるので、その切り替えは自由自在です。
どんなスイッチが入ってそうなるのか、というよりスイッチがないのかもしれません。
言語の切り替えは条件反射の様で、標準語と方言を使い分ける程度のことのように感じます。
興味ある本をどんどん読むこと:読書量が言語力をあげる
バス停でスクールバスを待っている間にも本を読んでいる子をよく見かけます。
小中学校では、少なくとも1か月に2冊以上の本を読みます。
積極的に本を多く読むことで、語彙を増やすことを行っています。
1.毎月の課題図書
国語の授業の課題は、1か月かけて1冊の本の内容をまとめたり、ボードにイラストや表を書いてクラスで発表したり、良い言葉集を作ったりと、深く内容を理解しているかを確かめながら、じっくり取り組みます。
この課題に使う本はクラス全員が違う本で、自分が読みたい本を図書室で借りたもので行います。
それぞれが違う本を選ぶには理由があります。
理由の一つは、興味あることがそれぞれ違うので、興味ある本を選ぶと自然と本に夢中になることができ、継続的に楽しく学ぶことができます。
もう一つは、子供たちの言語レベルが異なるので、それぞれが無理せずに理解できる本を選べるようにしているのです。
2.レベルにあった本を借りる
図書室の本には、色のついたシールが背表紙にはってあり、シールの色でレベル分けがされています。
子供たちはシールの色をみて自分のレベルにあった本を借りることができます。
3.高学年による読み聞かせ
ランチの後30分ほど、高学年の子供たちが、低学年の子供たちの教室に来て、1対1で読み聞かせをしてくれます。
高学年の子にとっても読み聞かせをすることで語学力が上がり、低学年の子にとっても語彙が増える機会となります。
4.教室の片隅に設けられた読書スペース
低学年のクラスには、先生の机の横に畳3畳分程のカーペットがひかれたスペースがあります。
そこには小さな本棚があり、国語や算数などそれぞれの時間に出された課題が早く終わった子は、そのスペースに行って、自由に寝転んだりしながら本が読めるようになっています。
多言語を習得する途中の混乱期:「場面緘黙症」
我が子の場合、5歳で現地校に入学し、英語とフランス語で授業を受けるようになったのですが、小学校の2年生の頃から学校でほとんど発言しなくなりました。
ある日、担任と校長先生に呼ばれ、学校での状況を説明され、家庭での状況を聞かれたのち、「場面緘黙症」ではないかと告げられました。
「場面緘黙症」とは、特定の場所でのみ発言ができなくなってしまう症状のことです。
我が子の場合は、学校の教室以外では普通に発言ができていたので、学校の教室に対して何らかの恐怖心があるのではないかと推測されました。
また、多言語を同時に学ぶことで、言語に自信がない中、授業では完璧に話さなければという気持ちが強く、混乱が起きて、発言ができない状況にあるのではないかとも言われました。
我が家の場合は、家では日本語で話し、学校に行くと英語と少しのフランス語で話すことで、同時に3か国語に接する環境にありました。
神経質で完璧主義の我が子の性格もあいまって、脳内で混乱が起きていたのかもしれません。
学校から、週1回、専門のカウンセラーが学校に来るので、カウンセリングを受けながら進めましょうと言われました。
パブリックスクールでありながら、対応の早さと手厚さに驚きました。
早速、次の週から無料で専門のカウンセリングを受けることが出来ました。
カウンセリングは、教室以外の体育館の片隅や校庭などで、カウンセラーと本人と1〜2人の友人のみの少人数空間をつくり、そこで話をすることを繰り返し行って、教室以外の学校で話をする練習を繰り返し行いました。
カウンセラーはその日行ったカウンセリングの内容と子供の様子を必ず電話で報告してくれました。
また、他のクラスの先生は「僕も幼少期に学校で全然話せない時期があったんだよ。大丈夫だから。」と励ましてくれました。
担任の先生は、教室での発表ができなかったので、自宅で発表したものを録画して提出してくれれば、それで成績をつけましょうと言ってくれました。
学校の先生方が、子供に寄り添ってサポートをしてくれたことに、いまでも心から感謝しています。
子供を第一に考え、色々な角度から子供を守るカナダの教育方針は、本当に素晴らしいと感じます。
カナダはトロント大学を中心に「場面緘黙症」だけではなく、多言語を学習する時期に起こる様々な心理的ストレスや脳の混乱に対する研究が進んでいます。
学術的な研究発表により、多くの本も出版されており、教育の場でも理解が得られています。
その後、6年生で転居により別の学校に転校すると、がらりと環境が変わりました。
いつも多くの友人に囲まれ、先生とも冗談が言えるくらいの関係になり、本当に今までの状況がなんだったんだと思うほど、学校でもよく話すようになりました。
混乱期を経て、現在は、日本語、英語、フランス語、スペイン語を人と場面に合わせて、自由にスイッチして話すことができるまでに成長しました。
もし、海外生活をはじめて、お子さんが言語が通じなくて混乱している様子がみられたら、絶対に責めたりしないで、ゆっくりと見守ってあげてください。
親はできる限りのサポートをしながら、お子さんの成長を信じて待ってあげてください。
多言語を習得するには
1.軸となる言語のレベルをあげる
多言語を習得するには、まずは軸になる言語を一つ確実に身に着けることだと言われています。
軸になる言語がしっかりしていれば、その言語のレベルまで2つ目の言語は上達するというのです。
オタワの子供たちも、家が英語の場合、その英語の単語に引っ張られて、学校でフランス語の単語を理解していきます。
同時に覚えていくイメージですが、やはり、先に英語の理解があって、フランス語がついていく形で学習しているようです。
家の言語が日本語の場合、英語と語順や単語がかけ離れているので、同時に理解が進むのは難しいと感じます。
現地校に通ううちに、英語のフレーズ、表現がそのまま暗記されて蓄積していき、日本語の語彙と同じくらい暗記ができてくると、日本語も英語もどちらも意識せずに反射的に言語がでてくるようになります。
海外に転居して3年もすると日本語のフレーズの方が少なくなり、英語のフレーズが増えて、英語で話す方が楽になってくる様です。
その時には、なるべく日本語のニュースなど少し難しい言語を聞く時間を作ると、日本語のフレーズも同時に増えていきます。
そうこうしているうちに、日本語と英語は場面によって自然と意識せず使い分けて話すことができるようになります。
2.映画やYouTubeなどの映像を利用しよう
現地校の先生から、英語の理解をすすめるために、おすすめの学習サイトを毎日やるようにと言われます。
学習サイトの多くは繰り返し単語を学習し暗記するものです。
英語が理解できるようになると、先生から勧められた映画を英語やフランス語の字幕付きで見るようになります。
字幕をつけて映像を見るという学習方法は、単語や表現方法の確認ができるのでおすすめです。
また、YouTubeでニュースやドキュメンタリーなどの短い映像を見ることもおすすめです。
インターネットの普及により、手軽に世界中の言語で映像を見ることができます。
特に興味があるものは、たとえ日本語でなくても毎日続けてみることができます。
興味をもち日々続けることは、言語の習得にとても重要なことです。
興味あるものを見に海外に出てみよう
カナダの首都、オタワのような環境で自然に英語とフランス語を習得することは、ある意味理想的なことでしょう。
通常、多言語を学ぶことは、容易なことではありません。
ただ、いくつかの言語を理解できるようになると、それだけ多くの人とコミュニケーションがとれ、世界中に友達ができるということは、素敵なことです。
言葉は人々がコミュニケーションのために生まれたものなので、生活のために必要に迫られて話すことで身につくものです。
言葉が通じなくて悔しい思いをしても、その経験が次に通じる喜びにきっと変わります。
まずは、興味あるものを見に海外に出てみませんか。
言葉の習得はきっとそこから始まります。
世界中の日本人が参加する「せかいじゅうサロン」
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