声楽を勉強している人なら、将来はプロとしてオペラやコンサートの舞台に立ちたいと考えている人がほとんどでしょう。
しかし、現実はなかなか容易なことではありません。
ここでは、クラシック音楽の最も盛んなイタリア、ドイツ、フランス、オーストリアなどのヨーロッパ諸国の中から、フランスにおいて声楽家という職業が、フランス社会でどのような役割を担っているかについて紹介したいと思います。
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プロの声楽家を目指すということ
日本では音楽大学を卒業しても、プロの演奏家として声楽だけで生計を立てられるのはほんの一握りの人たちです。
多くの場合、他の職業と掛け持ちしながら演奏活動を続けるか、学校や音楽教室などで後進の指導にあたる教育者となることが少なくありません。
その一方で、ヨーロッパには何世紀にもわたってクラシック音楽が伝統文化として社会に深く浸透し培われてきた歴史があります。
偉大な作曲家たちが残した数多くの作品を保持し、後世に文化遺産として残していくためにも、演奏家の存在は必要不可欠なのです。
フランスの音楽教育
フランスでは日本の義務教育のように音楽の授業はないので、音楽を学ぼうと思ったらコンセルヴァトワールなどの音楽学校に入ります。
そして、音楽学校を修了した学生には、「音楽研究資格」 Diplôme d’études musicales (DEM)という国家資格が与えられます。
この資格は日本の音楽大学卒業時に与えられる「学士」という資格とは少し異なるものですが、文化遺産の保持という観点からみれば分からなくもありません。
もちろん、大学で専門課程を修めるか、高等音楽院で相応の教育課程を修めれば学士、修士相当の資格を取得することも可能です。
フランスの主な公立音楽学校の区分
- Conservatoire National Supérieur de Musique
フランス国立高等音楽院 - Conservatoire à rayonnement régional de musique
フランス地域圏立音楽院 - École Nationale de Musique
国立音楽学校
コンセルヴァトワールという公的機関
元々、コンセルヴァトワール conservatoireという言葉は、「conserver= 保存する、保持する」を意味するフランス語の動詞から派生したもので、文化遺産や自然遺産などを管理・保持する公的機関を指す呼称です。
コンセルヴァトワール・ドゥ・ミュジーク Conservatoire de musique とは、直訳すると音楽を管理・保持する公的機関ということになります。
フランスにおける声楽家という職業の位置付け
フランスでは会社員や公務員、自営業などのような職業と同じように声楽家もひとつの職業として認識されています。
- Artiste lyrique または Chanteur (chanteuse) lyrique
オペラ歌手。主としてオペラやオラトリオなどのソロを歌う人。 - Artiste du chœur またはChoriste
合唱 団員。主として合唱を歌う人。
この2つの呼称は、契約・税制上の区分なので、人によってはソリストとしてだけ、あるいは合唱団員としてだけの仕事をする人、またはソロと合唱の契約の両方をうまくこなして生計を立てている人がいます。
オーディションは一年を通して必要に応じて行われる
ソリストやフリーランスとして仕事をしたいのであれば、オーディションは不可欠です。
一般に、年間の一定期間にオペラやバレエなどを上演するような大きな劇場では、プログラムの予定を3年位先まで決めていると言われます。
なぜならば、劇場側が人気のある歌手に主役を歌ってもらいたいと思ったら、彼らのスケジュールがまだ埋まっていないであろう数年先まで見据えて交渉にあたらなければならないからです。
劇場のオーディションは随時行われているので、履歴書に自分の演奏CDやDVDなどを添えて劇場総監督や芸術監督、合唱の場合は合唱指揮者宛に手紙を送ります。
もし、彼らの目に留まれば返事がもらえて、実際にオーディションが上手く行けば契約まで至る可能性があります。
公務員としての声楽家という道もある
コンクールと言っても国際声楽コンクールばかりではない
コンクールという言葉は日本でもよく耳にしますが、毎年、世界のいたるところで国際声楽コンクールが開催されています。
これらのコンクールに優勝、あるいは入賞する事によってプロへの門戸が開かれることも少なくないので、申し込み者数も多くみんな必死です。
これらの声楽コンクールとは違うもうひとつのコンクールが存在します。
他のヨーロッパ諸国と同じように、フランスにはオペラを上演する数多くの劇場があります。
その各劇場が抱えているオーケストラや合唱団に定年退職などで欠員が出た場合には、その穴を埋めなければなりません。
この際に行われる公募もまたコンクールと呼びます。
しかも、国や自治体の統括下にある劇場や団体の場合は、その契約形態によりオーケストラの楽員や合唱団員は、公務員と同等の権利を得ることなります。
彼らには週35時間労働、年5週間の有給休暇、そして、定年退職後には年金支給と、日本では考えられないようなプロの声楽家としてのキャリアが約束されています。
フランスでは、声楽家はフリーランスとして成り立つのか
まず、結論から言うとフリーランスとして成立します。
1年間に507時間の課税された仕事をフランス国内で行った者は、 「アンテルミタン・デュ・スペクタークル」Intermittent du spectacle と呼び、フリーランスの演奏家として職業認定されます。
フリーランスの声楽家には、日本と同じように、オペラの公演やコンサートなどで合唱団の人数が足りなかったりした時などに、エキストラの団員として仕事をこなしていく人たちが多いです。
また、ソリストの多くはフリーランスです。
たとえば、オペラの上演には舞台装置や衣装などに多くの予算が必要なので、いくつかの劇場が共催して上演する事が多いですが、その初演公演のメンバーとして仕事をしていた場合は、運が良ければ共催の劇場でも同演目に出演できるという可能性もあります。
声楽家・フリーランスの利点と注意
フリーランスの声楽家にも有給休暇や年金支給があります。
雇用主が社会保障費として納めている経費の中に含まれているからです。
その反面、フリーランスとしての職業認定が失効していまわないよう最低限の条件は毎年クリアしなければならないので、実力はもちろんですが人脈も重要です。
有給休暇
フリーランスの声楽家は、1年間(4月1日~3月31日)に稼いだ額によって有給休暇が所得できます。
これは雇用主が社会保障費として支払う内、給与の10%にあたり、国の出先機関である「コンジェ・スペクタークル」Congés spectaclesに納められています。
有給休暇は本人が希望する15日前までに申請することができ、期間は自分で決めることができます。
失業保険
フリーランスで仕事をしている以上、契約が途切れてしまう可能性も考慮しなければなりません。
それをカバーし生活を保障てくれるのが「職業安定所」 Pôle emploi です。
先程の職業認定の条件はもちろんですが、以下の条件も併せてすべてクリアしていれば失業手当がもらえます。
ただし、支給額、期間には個人差があります。
- 過去28か月のうち4か月の給与所得があった(53歳以上の場合は36か月)
- 自分の意志とは関係のない解雇や一時雇用、臨時雇用の終結
- 失職後12か月間は職業安定所に登録し、積極的に就職活動を行う
- 定年には達していないが、年金受給資格がまだ得られていない
- 労働に身体的障害がない
- フランスに住んでいる
失業保険と言うと、日本ではあまり良いイメージを抱かないと思いますが、フランス人は当然の権利として割り切っているので、507時間働いたら後は好きなことをして悠々自適な生活を送っている人たちも少なくありません。
しかしながら外国人の場合は、これらの条件に加えて労働可能な滞在許可証を保持していることが前提なので、渡仏後いきなりフリーランスというのは成立しません。
声楽家として、いざフランスへ
ビザ取得が先か、それとも職を見つけるのが先か
今度は日本からフランスへ行く場合を考えてみましょう。
一番オーソドックスなのは留学です。
それならば学生ビザを取得すればよいので特に問題はないでしょう。ではそれ以外はどうでしょうか。
ソリストとして活躍の場を見つけたい場合は、まずは先程述べたように劇場に手紙を書きましょう。
そしてもし、オーディションの日取りが決まっても、日本人なら観光目的で3か月間は自由に行き来できるので、そのままオーディションに臨んでも特に問題はないでしょう。
国や自治体の統括下にある劇場付きの合唱団員や団体のコンクールを受ける場合も基本的には同じです。
ただ、ホームページに募集要項が掲載されていることが多いので、まず内容をよく読むことをおすすめします。
場合よっては対象が「既にフランスに住んでいて労働許可を有する者に限定」されていることもあります。
それ以外でもフランス語能力やその他の言語能力などをはじめ、何段階にもわたる審査があり少しハードルは高いです。
いずれにしても、契約まで至る場合には劇場側がしかるべき手続きを手伝ってくれるので心配はいりません。
音楽学校の留学生でも一定の基準を満たせばチャンスはある
コンセルヴァトワールや大学などの高等教育機関に留学している学生には、フランスの労働法で定められている年間就労時間の60%(964時間)を上限に、学生ビザや学生滞在許可証の有効期間内で、一時的な労働許可が下りる可能性があります。
実際にこの方法を利用して舞台経験を積んでいる外国人が少なくないことも事実です。
まとめ
声楽家という職業がフランス社会においてどのような役割を担い、職業として認められているのかという事をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
フランスにはたくさんの可能性があるということを知った皆さんは、近い将来、フランスの舞台に立つご自身の姿を想像されたかもしれません。
せっかく声楽を勉強するのなら、本場フランスでご自分の可能性を試してみても決して損はないと思います。
皆さんの将来が希望に満ちた素晴らしいものになることを祈っています。
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