国や時代が変わっても、妊娠や出産が女性にとって大仕事であることは変わりありません。
とはいえ、言葉や医療システムの違いがある国で妊娠や出産をすることは、想像以上に大変なことになります。
今回の記事では、妊娠がわかってから出産して少し落ち着くぐらいまでの間にスペインで起こるであろうことを、必要なスペイン語とともにご紹介します。
スペインは妊婦さんや赤ちゃんにやさしい人の多い国です。
あなたの妊娠・出産をとても喜び、祝福してくれる人たちがたくさんいますよ。ご安心を。
妊娠したかも・・・。どこで確認する?
「もしかしたら、妊娠したのかもしれない」と思った女性が、まず行く場所が薬局(Pharmacia:ファルマシア)ではないでしょうか。
そして購入するのが妊娠検査薬(Prueba de Embarazada:プルエバ・デ・エンバラサーダ)。
とはいえ、日本のような形式の「ドラックストア」がほとんどないスペインでは、薬局では対面販売が基本です。
そのため、中には妊娠検査薬を購入するのに躊躇してしまう女性も少なくないかもしれません。
でも、スペインの薬剤師さんは女性の方が多いですし、たとえ男性の薬剤師さんでもお仕事はきちんとする方が圧倒的です。
ですから、恥ずかしがらずに、”Quiero comprar una Prueba de Embarazada:妊娠検査薬を買いたいのですが”と伝えましょう。
その後、妊娠が発覚したら、病院に行くことになります。
しかし、スペインに住む外国人は、ここでもこの国の医療制度につきものの「例の問題」と対峙することになります。
Publico (パブリコ)か、それともPrivada(プリバダ)か?
スペインには医療システムが2種類あります。
通称Publico(パブリコ)か、あるいはPrivado(プリバド)と呼んで区別されています。
Publico (パブリコ)で出産する場合
パブリコと呼ばれる医療システムは、国や地方公共団体が提供している公的な医療システムです。
このパブリコの医療システムを利用できるのは、基本的にスペインで働いて社会保障費を支払っている人とその家族だけになります。
そして、このパブリコの医療システムを利用し、出産すると基本的に妊婦さんの費用は無料になります。
パブリコの医療システムのもとで出産をする妊婦さんは、妊娠がわかると最寄りの保健所(Centro de Saludo: セントロ・デ・サル―ド)に行き、担当医師(Médico de cabecera:メディコ・デ・カベセーラ)の診察を受けることになります。
そして、保健所で妊娠が正式に確認された妊婦さんは、担当医師から産科(Medico de Embarazada: メディコ・デ・エンバラサーダ)の医師へと送られます。
しかし、保健所から産婦人科の医師へ送られるタイミングは、妊婦さんによって異なることが少なくありません。
例えば、問題がなく比較的順調そうなお産になると予想される場合は、出産の2か月から3か月くらい前まで担当医師が保健所で妊娠の様子を見守ります。
その一方で、母子ともに何らかの危険が考えられる出産になると予想される場合には、妊娠発覚後すぐに産婦人科の医師の所へ送られる場合もあります。
いずれにしろ、最終的に妊婦さんは、産科の医師と助産婦(Matrona:マトロナ)の協力の下で出産することになります。
無料で出産ができて、非常に妊婦さんにやさしいように見えるスペインのパブリコの医療システム。
しかし、医療費が無料なこともあり他の病気の患者さんも利用するため、診療の予約が非常に取りにくいという難点があります。
そして、診療を受ける場所にある保健所によっては、胎児の状態を確認するエコー機器(Ecografía:エコグラフィア)を備えていない所もあるため、不安を覚える妊婦さんがいることも事実です。
Privado(プリバド)で出産する場合
スペインにあるもう一つの医療システムが、Privado(プリバド)と呼ばれるものです。
このプリバドの医療システムはスペインにある民間の医療保険会社が運営しています。
そのため、プリバドの医療システムを利用できるのは、民間の医療保険会社に加入している人です。
つまり、保険会社の医療保険、この場合は妊娠出産に対応する保険商品を購入している人が、各保険会社の医療システムを利用することができます。
細かい点は各保険会社で異なりますが一般的な流れとしては、妊娠検査薬で妊娠を確認した後、各保険会社が契約している産科の医師の所へ診療予約をして、医者のもとを妊婦が訪ねるという形になります。
各保険会社は、自社の契約している医師のリストをネットなどで公開していますし、各保険会社に電話することで産科医師を探すことができることもあります。
プリバドのシステムで妊娠・出産すると、妊娠の早い段階から産科の医師のもとで経過観察や診察を受けられることが多いです。
それにより医師や助産婦と知り合いになることが多く、安心して出産に挑むことができます。
また、保険内容によっては出産方法が自由に選択できる場合があり、パブリコの場合と比べると、カバーできる幅が広いことがプリバドのシステムで出産をするアドバンテージとなっています。
3:例えば、お腹の赤ちゃんのエコー写真はどこで撮影できる?
妊婦さんの中には、一応出産はパブリコですることを決めていても、もっと詳しくお腹の赤ちゃんの様子を知りたいと思う人も少なくありません。
中には、おなかの赤ちゃんの写真を撮りたいと熱望する人もいることでしょう。
そうした人は、街中でエコーしてくれる産科の医師を自分で探して、診察(あるいはエコー写真撮影)の予約を取る必要があります。
その費用は自費で支払うことになりますが、少し心配な妊娠の場合などに、セカンドオピニオンとして別の産科医師の意見を聞いておくのもよいかもしれません。
出産の仕方は?
通常は無痛分娩
スペインの場合、妊婦さんからの特別な希望がなければ、無痛分娩で出産することがほとんどです。
出産前に麻酔医が来て背中から麻酔薬を入れることになるので、多くの日本人妊婦さんはびっくりするかと思います。
全身麻酔にはなりますが、大手術の時のように眠ってしまうほどの全身麻酔というわけではなく、いきむための感覚は維持されています。
しかし、ここで気をつける必要があるのは「無痛分娩のときに麻酔薬を注入するのは出産の本当に直前である」ということです。
つまり、陣痛の痛みはどの妊婦さんも経験することになります。
ちなみにスペインでも、母子の健康状態を考えたうえで、医師が帝王切開での出産を決断することはもちろんあります。
また、より自然な状態での出産にこだわったり、自宅で出産したいと考える妊婦さんもいます。
特にプリバドの保険の場合、保険の種類によっては、通常の病院での出産だけをカバーする保険であったりすることが少なくありません。
そのため、特別な方法で出産したいと考える妊婦さんは、保険の内容を確認する必要があります。
また、特別な出産方法を扱った経験のある助産婦や医師を選ぶ必要もあるので、注意が必要です。
急に産気づいたときは?
現代の医学である程度管理できるようになったものの、まだまだ「自然」に任せることが必要な行為が「出産」です。
そのため、妊婦さんが思いもしないような場所で出産してしまう場合もあり得ます。
もしも万が一、病院以外の場所で急きょ出産することになってしまった時には、迷わずスペインの緊急時総合連絡センター(電話番号112)に電話をして、指示を仰ぎましょう。
また、緊急時総合連絡センター(電話番号112)に電話もできないようなときには、とにかく近くにいる人に助けを求めてください。
そのため、スペインで妊婦生活を送る人は、”Estoy embarazada(エストイ・エンバラサーダ: 私は妊娠中です)” というスペイン語は必ず覚えてください。
緊急事態に直面した時などには、見知らぬ人同士であっても協力し合うことがなぜか得意なスペイン人。
必ずあなたの力になってくれる人が現れるはずです。
出産すると、お母さんはすぐに現場復帰。でも・・・
母子ともに健康に大きな問題がないようであれば、出産後3日ほどでお母さんと赤ちゃんは病院を退院することになります。
日本の場合と比べると退院するのが早いように思えますが、スペインでは無痛分娩が一般的なため、お母さんの体力の回復が早いことが理由の一つでしょう。
そのため、新米お母さんは出産してものの数日で、赤ちゃんとの新生活をスタートすることになります。
しかし、残念なことに中にはすぐに退院できない赤ちゃんもいます。
そうした赤ちゃんは、スペイン各地にある総合病院の新生児特定集中治療室(Unidad de Cuidados Intensivos Neonatales 、通称 UCINとスペインでは呼ばれるに入院することが少なくありません。
スペインでも、各地のある総合病院の産科とUCINは密接に連携しています。
前述のとおり何らかの不安のある妊娠の場合には、総合病院の産科で出産し、赤ちゃんはそのままUCINへ入院することも少なくありません。
スペインも新生児医療は近年急速に発展しています。
例えば、2017年のデータではスペインの乳児死亡率は、1000人の子供に対し2.7です。
この数字は韓国とほぼ同じ数です。
お母さんが安心して出産できる体制は整っていると考えてもよいのではないでしょうか。
「マタハラ」はある?
日本では、妊娠すると「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」と呼ばれるような、職場での嫌がらせを心配しなくてはいけない女性も少なくありません。
スペインの場合はどうなのでしょうか。
まず、スペインでは妊娠出産を理由として、従業員に不利益を与える行為は「妊娠出産を理由とした差別(Discriminación Por Embarazo:ディスクリミナシナシオン・ポル・エンバラソ)」と呼ばれ、法律で禁止されている行為です[1]。
つまり妊娠や出産を理由にした減給等は許されてはいないということです。
しかし、ある調査によると、スペインで働く63パーセントの女性が妊娠出産を理由とした何らかの差別に直面したことがあるというデータもあります[2]。
妊娠出産を理由とした差別は公には禁止されているものの、いまだに根強い差別があるのがスペインの現状といえるのではないでしょうか。
参考:
[1] https://www.eeoc.gov/es/discriminacion-por-embarazo [2] https://www.abc.es/familia/mujeres/abci-mobbing-maternal-afecta-63-por-ciento-mujeres-espanolas-201907280216_noticia.html?ref=https:%2F%2Fwww.google.com%2FBautizo(バウティソ)って何?
多くの文化圏では、赤ちゃんの誕生はとても喜ばしいこととされています。
そして、赤ちゃんが生まれると、いろいろな人にお披露目する場が持たれるのも、多くの国で見ることができる習慣です。
スペインでは、赤ちゃんが生まれるとBautizo:バウティソと呼ばれるキリスト教の洗礼式が開かれることが少なくありません。
生まれてすぐの赤ちゃんが家族や親せきご一同様とともに、地元のキリスト教会をおとずれて洗礼を受けます。
このバウティソでは、いわゆるゴッドファーザー(Padrino:パドリーノ)やゴッドマザー(Madrina: マドリーナ)という、赤ちゃんの親代わりになる人が決められます。
このパドリーノやマドリーナを選ぶのは赤ちゃんのお父さんお母さんで、その昔は実の親が亡くなったときの代父・代母という重要な役割でした。
今はそうした意味も少なくなっていますが、子供のパドリーノやマドリーナに選ばれるのは、赤ちゃんの親が「この人は十分に信頼を置ける人物である」と認めた友人や親戚縁者であることがほとんどです。
しかし、核家族化が進むスペインでは、赤ちゃんが生まれてもこのバウティソをしない家族がいるもの事実です。
多くの親せきや友人が集まるので、開催するには非常に手間やコストがかかりますし、今はキリスト教以外の宗教を信じる人もスペインに暮らしています。
こうした時代の流れに理解を示しながらも、一抹のさみしさを感じるスペイン人が多いのも、また事実ではあります。
スペインでの産休は何週間? 0歳から預けることができる保育園はある?
会社員という雇用形態で仕事をしている人にとって、妊娠した時に気になるのが「産休(Baja de Maternidad:母親の産休/ Baja de Paternidad:父親の産休)のシステムがどのようになっているか」ということではないでしょうか。
スペインでは、母親であれば16週間、父親であれば12週間の産休を取ることができます(2020年現在)。
ちなみにスペインでは、条件は異なりますが、この「産休」は子供を養子に迎えたときにも取ることが認められています[3]。
そして、実際に産休を取ることになると、男性より女性の方が、産休を取る人が多い傾向があります[4]。
女性の産休はスペインではすでに一般的ですが、男性の産休はまだまだなじみが薄いのが現状です。
そして、産休明けのお母さんとお父さんは、子供を預ける場所を探さなくてはなりません。
スペインでは0歳から3歳までの子供が行く保育園をGuardería(グアルデリア)と呼びます。
0歳の子供を受け入れている多くのグアルデリアがありますので、インターネット上で 「Guardería, a 0 de 1 niños」などの言葉で検索してみることをお勧めします。
ちなみに、スペインでは日本のような「待機児童」の問題というのを聞くことがあまりないように思われます。
ただし、スペインでは義務教育が3歳から始まり、そしてスペインの新学期は9月スタートです。
そのため、3歳以上の子供の場合、9月の入学時期以外には学校(スペイン語でColegio:コレヒオ、通称COLE:コレと呼ばれる)に編入しにくい、という問題はあります。
一方、グアルデリアはいつでも子供を受け入れてくれるところが少なくありません。
参考:
[3] https://factorialhr.es/blog/baja-maternidad-paternidad-2020/ [4] https://www.niusdiario.es/sociedad/permisos-paternidad-maternidad-excedencia-mujeres_18_2843670264.htmlBienvenido/ Bienvenida al Mundo
スペインでは子供が生まれると、その子に向かって“Bienvenido(女の子にはBienvenida) al Mundo”と言うことがあります。
日本語に訳すと「この世界へ、ようこそ」
この世に生まれてきた新しい命を祝福する言葉です。
少子化が進むスペインであっても、妊娠・出産は「とても大切なできごと」といまでも考えられえています。
また、赤ちゃんは国籍や肌の色を問わず、スペインのどこへ行っても人気者になります。
異国での妊娠出産に不安を覚える人もいるでしょうが、スペインでは外国人でも快適な妊娠・出産ライフを送れるような社会ができあがっています。
どうぞご安心ください。
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