ドイツの首都、ベルリンは多くのアーティストが暮らす街として有名です。
音楽家に絵描き・写真家・ダンサー・料理人などのフリーランスアーティストとして活動するにはどうしたら良いのか、海外就労の経緯やビザ申請、住んでみてのメリットやデメリットを含め、ご紹介します。
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私が海外で活動をすると決めた理由
クラシック音楽を小さい頃から学んでいた身として、チャンスがあれば本場で学び、活動をしたいと考えていました。
数年前に、ベルリンですでに活動をしている友人からビザの話を聞いたのが始まりです。
10年前からチェコとドイツには何度も訪れており慣れてはいましたが、筆者の父は指揮者で、40年以上前にベルリンでホルンを学んでいたこともあり、昔からベルリンの話をよく聞いていたことが理由なのか、ベルリンへの憧れは大きく膨らんでいました。
そして2021年の夏にフリーランス芸術家として、自分の夢に近づくために、そしてより成長するために、拠点をベルリンに移すことを決心しました。
ベルリンには自営業(Selbständigen Tätigkeit)が許可される就労ビザがあります。
音楽家と絵描きである筆者はこのビザを取得して活動しています。
フリーランスビザ(長期滞在許可証)
2021年9月にベルリンの外人局・移民局で申請したビザの種類は「フリーランスビザ」というものです。
自営業(Selbständigen Tätigkeit)が許可されるビザという認識で、申請した職業のみの活動ができ、長期の滞在が許可されます。
音楽家と絵描きで申請した筆者は3年間の滞在許可がおりましたが、許可された職業は「音楽家と音楽教師」のみでした。
いま考えると、提出した必要書類の中の「ポートフォリオ」のレイアウトが音楽家としての印象が多く、絵描きとしての印象が少なかったのが原因なのかもしれないと、振り返っています。
提出した書類のチェック方法は、外人局で担当する人により大きく変わります。
私も含め、多くの友人がビザの申請をしましたがその対応、書類の目の通し方、申請者に対する質問、面接にかかる時間も違います。
まずは外人局が指定する書類をしっかり抜け目なく準備することが、ベルリン移住の第一歩です。
フリーランス音楽家として、ドイツでの活動
筆者はフリーランス音楽家・打楽器奏者として、ベルリンで活動を行っています。
「演奏活動」や「音楽教師」としての活動は決して容易なものではありませんが、ベルリンには音楽家だけでなく、アーティストが活動できるスペースが多く存在しますので挑戦の日々を過ごしています。
筆者の主なスタイルとしては、クラシックや即興演奏(インプロビゼーション)、オリジナル曲の制作です。
演奏活動としては、ギャラリーやホールでの演奏を行っています。
単独でのコンサートや他のアーティストとのコラボを多く行っています。
教師としての活動は、私の専門である打楽器とハンマーダルシマー(打弦楽器)、ピアノ、音楽理論のレッスンを行っています。
大人から小さなお子さんまでの対面レッスンを行い、生徒さんのご自宅にお邪魔したり、オンラインレッスンを行っています。
日本にいらっしゃる生徒さんとはオンラインでレッスンを行っています。
ベルリンでのフリーランサー需要と給与事情
ベルリンでの音楽家(フリーランサー)の需要はあります。
なぜなら、ベルリンは街全体がフリーランサーを受け入れ、フリーランサーとして生きていくチャンスが多く存在するからです。
しかし、需要があるからと言って、それがダイレクトに収入になるかは正直、人それぞれのところがあります。
ベルリンには活躍できる多くのチャンスがありますが、それだけフリーランサーも多いので、常に競争している状態です。
音楽家やアーティストの給与事情はなかなか厳しいものです。
コンサートやライブを開催できる機会は得られるものの、安定した収入を得るには努力が必要です。
音楽家としてのやりがいとメリット
ベルリンで音楽家として活動をしていると、ハイレベルな音楽家に出会うことが日常茶飯事です。
多くのアーティストに出会うことで、自分に常に刺激を与えることができます。
そして自分が行動するだけ自分に返ってくる…と、感じています。
何をやりたいのか、何を目的としているのかを明確にし、なるべく言葉で多くの人に伝えるようにしています。
コンサートを行えば、終演後には多くの人から躊躇なくコメントを頂けます。
自分にとって嬉しいことも、厳しいことも、伝えてくれるありがたみをベルリンで過ごしながら日々実感しています。
逆に、大変なこと。
ベルリンでフリーランス音楽家として活動しているとあまりにも多くの同業者と出会うため、日本のように音楽家が珍しがられることは少なくなりました。
肩書きよりも、今の自分が何をしたいのか、何に向かっているのか..を、明確にし常に言葉にしていかないと前に進めないと実感しています。
会話の大切さ
海外に住んでいる人にとって「会話」はとても重要なキーワードです。
どんな仕事をしていても同じことが考えられますが、アーティストも同じです。
伝えることが苦手な人でも、日々アウトプットし続ければどんどん上手になるはずです。
部屋探し
ベルリンの音楽家にとって少し大変なことがあります。
それは、部屋探しです。
ベルリンでは、人口の割りに部屋が足りておらず、常に部屋を探している人に出会います。
筆者もその一人で、特に演奏家にとっては「音出しの出来る部屋」を探すことが難しく、海外移住を決めたとしても、渡航ギリギリまでお部屋が見つかりませんでした。
幸いなことに現在は、音出し可能な物件に住んでいるのですが、いざ次のお部屋を探そうとしてもそう簡単にはいきません。
演奏家でなくても、2022年のベルリンでの部屋探しは大変だということを知っておいてください。
フリーランスの音楽家としての需要はある?またどんな条件、資格が求められる?
フリーランス音楽家として、ベルリンへの移住は可能と考えています。
現在、筆者を含めてベルリンには多くのフリーランス音楽家が存在します。
それぞれ、活動の分野や活動方法は全く違いますので、何がベストかとは言えません。
移住が可能になるための第一歩は、フリーランスビザの取得です。
滞在許可がおりなければ、音楽家としての活動はスタートできません。
ビザ取得にはこれといった条件や資格が明確になっていないため、必要書類を準備して外人局に提出するしかありません。
フリーランスビザ(音楽家)を申請する前に考えたいこと
フリーランスビザ(音楽家)を取得できるかもしれない人物像の一例と必要書類について、ご紹介します。
あくまでも参考程度に、お読みください。
日本や海外でビザ取得以前に音楽家として活動していた経歴があることは重要です。
しかし、ベルリンでしかできない理由があることが絶対条件ですので、以前に活動歴がなかったとしてもビザが通る可能性はあります。
「なぜ、ベルリンでビザを取りたいのか」ここが明確になっている事が一番大事です。
- 自分にしかできないことを、ベルリンで行いたい(明確な理由が必要。ドイツ語の文章で提出)
- 自分についてを伝えるポートフォリオ書類(CV、賞状、CDリリース情報、作品情報などをA4にまとめたもの)
- ドイツ語を話せる(ビザ申請時に全く話せないと、語学学校を勧められます)
- 音楽大学や大学院、専門学校を卒業している証明(卒業していない筆者は、”Integrationskurs インテグレーション・コース”という、週5・3時間の語学学校に通うことが義務付けられました)
- ベルリンで予定している仕事の契約書、推薦書
- ビジネス計画書(今後、3年間でどれくらいの収入を得ることが出来るのか、グラフなどで作成)
- 銀行残高証明書(不安定な職業ですので、十分な貯金があるのかを重視されます)
- ドイツ国内で有効な健康保険を持っているか
- もちろん有効なパスポート
- 証明写真
- 住民登録証(住所登録/Anmeldung)
- 賃貸契約書(Mietvertrag)
リストの書類は2021年9月に申請した内容です。
必要書類に変動があるそうですので、詳しくは、ベルリンの外人局にお問い合わせください。
そして外人局の担当官によっても多少の違いがありますので、まずは最低限リストの書類を準備すると良いでしょう。
外人局の面接について
筆者の場合、面接にかかった時間は「一時間」でした。
全ての書類に目を通すのかと思いきや一番チェックしていた書類は「銀行の残高証明」と「ビジネスプラン」でした。
そして唯一の質問は「なぜ、大学を卒業しなかったのか」でした。
正直、動揺しましたが「大学に行かずとも勉強したいことがあったのでプライベートでヨーロッパに来て学んでいました」と、伝えたところ「これから大学にいくつもりはないのか?」と聞かれました。
筆者が「行きません」と伝えたところ、Integrationskurs インテグレーション・コースの受講を義務付けられました。
Integrationskurs インテグレーション・コース
ちなみに、Integrationskurs インテグレーション・コースは約7ヶ月のクラスで、B1(ドイツ語中級)の公式な試験に受かることで卒業が認められます。
卒業しなければ、次回のビザ更新が困難になると、外人局で言われました。
Integrationskurs インテグレーション・コースは、ドイツが進めている移民対策の一つで、移民局が発行している書類によると、ドイツに長期間住む外国人(すでに住んでいる人、これから住む人)向けにドイツ語とドイツの歴史・地理・政治などの知識を学ぶためのクラスです。
他に対象となる人は、ドイツに長年暮らしていてもドイツ語が話せない人や、求職者でドイツ語のスキルを上達しなければ仕事につけない人などです。
その場合、ジョブセンターからの通達があるそうです。
フリーランスでドイツ移住。どんなステップがある?
フリーランス音楽家として海外移住を目指す場合にはさまざまなステップがありますが、一例として筆者のステップを含めてご紹介します。
1:現地の言葉を学ぶ
ベルリンの移住を決めた時にまず考えたことは「ドイツ語」の習得でした。
筆者の場合は、音楽高校の授業で15年ほど前にドイツ語を始めていたので、基本的なことは頭に入っていました。
そして父親が話せることもあり言葉に馴染みはあったものの、改めて学ぶ必要があると考えました。
ベルリンは多くの人が英語を話しますのでドイツ語ができなくても、なんとか生活をすることはできますが、政府の書類や家探しなど、生活する中で結局はドイツ語が必要になってきます。
まずはベルリンも含め、海外移住を目指す場合「最低限の英語」を話せると良いでしょう。
2:アートシーンを調査
フリーランス音楽家としてベルリンに移住を決めた時、早々に現在のベルリンのアートシーンを調査しました。
ベルリンのアートシーンは日に日に変化しており、「現在どうなっているのか?」を調査するのはとても大事なことです。
自分がやりたいことが本当にそこで出来るのか?それを再確認するためにも、十分な調査を行いました。
調査方法としては、現地にいる友人に聞くことやインターネットを駆使しての調査がメインで、それに伴い、自分のビジネスプランも同時に組み立てることができました。
特に、現地の友人に情報を聞くというのは大きな収穫でした。
インターネットだけでは分からないことを沢山教えてもらうことができました。
3:数年のビジネスプランを考える
海外移住のビジネスプランを考えることはとても大切だと考えます。
ノープラン・弾丸での渡航も良いかもしれません。
しかし、長い目で見てみるとどうでしょうか。
ビジネスプランを立てると金銭面での計画だけでなく、心の余裕にも繋がってきます。
異国の地で生活するということは、決して簡単な事ではありません。
さまざまなトラブルや想定外の環境に置かれるかもしれません。そんな時に、渡航前に考えたビジネスプランを思い浮かべ直すと、初心に戻ることができます。
4:現地の人とのコンタクトを作る
海外移住を決めてからのステップとして大事なことの一つで、現地の人とのコンタクトを作るのはとても重要だと考えます。
もちろんコネクションゼロでの移住もワクワクします。
もし現地とのコンタクトを少しでも取れていると、海外移住のイメージが大きく膨らんだり、現実味が湧くようになります。
海外移住に対しての不安や知りたいことなども、移住前に解決するかもしれません。
音楽関係での移住を希望する場合は音楽関係の人と繋がったりと、自分の生活シーンに近い人と繫がって見てください。
そうは言っても自分には知り合いがいない。という方でも、最近ではSNSなどのオンラインを十分に活用すれば誰とでもやり取りが可能です。
ぜひ、躊躇せずにメッセージを送ってみてください。力になってくれることでしょう。
これから海外へ働きたい方へのメッセージ
海外で働くということは楽しいことも沢山ありますが、もちろん大変なことも多くあります。
自分が何をしたいか?どうしたいか?目的は何なのか?を常に考え、発信することが大事だと日々考えています。
特に、移住を決めた時点でビジネスプランを明確にしておくことは、今後の自分にとっても助けになるでしょう。
そして自分を発信して行動に移すことが出来れば、海外移住は大成功。
1日1日を大切に、自分だけの充実した海外生活を楽しんでみてください。
執筆者 打楽器奏者 近藤彩音
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