日本人がスペインで働こうと思ったら、その方法はおそらく2種類に分類されます。
- 一つはスペインに活動拠点を持つ企業で従業員として雇用される方法であり、
- もう一つは、スペインで自営業として活動する方法です。
スペインで外国人が自営業として働くには、スペイン政府が発行する通称「自営業ビザ」というものを取らなくてはいけません。
つまり、原則的には、このビザを持っていない外国人は、スペインで自営業として活動できません。
自分で事業活動をしながらスペインで暮らしていきたいと考える人にとって、この「自営業ビザ」は不可欠なものです。
しかし、その手続きは非常に複雑で、必要書類も多岐に渡ります。
その手続きの複雑さのために、このビザの申請をあきらめてしまう人がいるのも事実です。
この記事では、いつかスペインで自分で事業を起こしたいと考えている方のために「自営業ビザ」を取るための手続きについて説明したいと思います。
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自営業ビザの正式名称
前の文章「自営業ビザ」と言っておりますが、このビザの正式名称は「一時的な居住および自営業のための初回許可証(スペイン語:Autorización inicial de residencia temporal y trabajo por cuenta propia)」といいます。
つまり、滞在許可証と労働許可証がセットになっています。
「一時的な(temporal)」という言葉がついている理由ですが、この許可証を持ち続けるには、一定の年月ごとに必要書類を提出し、更新する必要があるためです。(許可証の更新については6. で説明します)
ちなみに「初回」許可証となっているのも、同様の理由です。
とは言え、正式名称があまりに長すぎるので、この記事では「居住・自営業許可証」と略して、これからの話を進めていきたいと思います。
応募資格
この「居住・自営業許可証」を申請するには、以下の条件が必要です。
- ヨーロッパ共同体(EU)の市民権を持っていないこと。
- スペイン国内に不法に滞在していないこと。
- スペイン国内および以前の居住地で警察に逮捕されていないこと。
- スペイン入国を禁止されていないこと。
- 一定期間、母国に帰っていないこと。
- 事業のための法的・経済的な準備がととのっていること。
- 職業のための必要な資格を持っていること。
- 事業を始めるために必要な初期投資をカバーできる経済力があること。
- 事業を継続するのに必要な経済力を持っていること。
1の条件は、EUの市民権をもつ人はEU内で自由に居住・労働ができるため、「居住・自営業許可証」を必要とする人は必然的にEU以外の国籍を持つ人となります。
2と3の条件は、スペインで犯罪を犯していないことを証明するためです。
4も同様です。
5に関してはあまりに、母国に帰っている期間が長いと、スペインで事業をする意味に疑問が生まれます。
6と7に関しては、事業を起こすのに必要なことですし、8と9に関しては、経済力の証明が必要ということになります。
以上の条件を見てみると、応募条件は比較的妥当なものである言えるのではないでしょうか。
必要書類
応募の際の必要書類は、以下のようになっています。
- スペイン政府指定の申し込み用紙(書式EX07)
- パスポートの前頁コピー
- 活動拠点となる場所があること証明書
- 事業活動に必要な資格の証明書
- 所有する資産がいくらあるかの証明書
- 事業計画書
いかがでしょうか。
意外と書類が少ないことに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
1の指定の申込用紙は、スペイン政府のサイトから入手できます。
2のパスポートの全ページのコピーも問題ないものと思われます。
続いて、3の活動拠点となる場所の賃貸(あるいは購入)の証明書は、使用予定の事務所や店舗などのの賃貸契約書のコピーで十分です。
4の事業活動に必要な資格の証明書というのは、例えば、スペインで弁護士として活動するのであれば、スペイン国内の大学の法学部の卒業証書等がその書類に該当します。
また、レストランなど飲食関係の事業をしたいのであれば、日本で発行された調理師免許をスペイン語に翻訳した上で、アポスティユをつけて、提出することになります。
5に関しては、銀行口座の残高証明であったり、もしも他のところから融資を受けられるのであれば、その融資の契約書のコピーなどが必要となります。
このような書類で大切なことは、たとえば、日本で取った資格(調理師免許など)を提出するときには、その書類をスペイン語へ翻訳したうえで、日本政府が発行するアポスティーユ認証をつけて、スペイン側へ提出する必要があるということです。
そうしないと、スペイン側は正式な書類として認めてくれません。
6の事業計画書については、特別な準備が必要となります。
極端な言い方をすると、この事業計画書がスペイン側に認められるか否かということが、「居住・自営業許可証」を取得できるかどうかということに深くかかわってくるためです。
事業計画書について
4つの相談窓口
とはいえ、事業計画書を書くのは大仕事です。
まず、どのようなことを書けばいいのか、途方に暮れる人がほとんどでしょう。とはいえ、解決方法はあります。
スペインには、自営業者や中小企業のための利益団体というものがいくつか存在します。
そのような組織には、自営業者になりたい人のための相談窓口を設置しているところが多数ありますので、そういったところに事業計画書の相談をすることができます。( ただし、こういった相談窓口に、英語を理解する人がいるかどうかは、運に任せることになります。)
以下の4つの組織が、スペインでは比較的有名な、自営業者や中小企業のための利益団体です。
1.Federación Nacional de Asociaciones de Empresarios y Trabajadores Autónomos(企業家・自営業者国家連盟: 通称ATA)
加盟者数45万人。スペイン各地支部にあり。
WEB:https://ata.es/
2.Unión de Profesionales y Trabajadores Autónomos (職業人・自営業者組合: 通称UPTA)
スペイン全土に34の支部あり。
WEB:https://upta.es/
3.Confederación Intersectorial de Autónomos del Estado Español (スペイン自営業連盟: 通称CIAE)
マドリードのアトチャ駅近くに本部あり。
また、関係機関がバルセロナ・ビルバオ・ヒホン・サラゴサ・トレド・サラマンカ・ポンテべドラ・バレンシア・ナバラ・マヨルカ・ムルシアにあり。
WEB:http://www.autonomos-ciae.es/
4.Unión de Asociaciones de Trabajadores Autónomos y Emprendedores (自営業・起業家連盟組合: 通称UATAE)
加盟者数35万人。スペイン国内17か所に支部あり。
ちなみに、事業計画書の評価は、ダイレクトに滞在· 事業許可証申請の結果に影響します。
つまり、2つの機関(スペイン大使館orスペイン内務省外国人局)がOKと判断した事業計画書は、スペイン政府も認める可能性が高いです。(参照サイト:Autorización inicial de residencia temporal y trabajo por cuenta propia.)
そして、その結果として滞在· 事業許可証の取得に一歩近づくということになります。
スペインで、こういった機関の相談窓口で、英語を話せる人に出会えるかどうかというのは、多分に運任せのところがありますが、もしも、スペイン語を話せる人が近くにいるのなら、こうした機関と電子メールやFACEBOOKなどを通じて連絡をとり、事業計画書について相談することも必要でしょう。
事業計画書の内容
では、実際の事業計画書には、具体的にどのような内容を書けばよいのでしょうか。
一般的に、次のような情報が必要となります。
- 事業を行う人の情報
名前・パスポート番号・住所・電話番号・メールアドレス等。 - 事業所についての情報等
企業名・住所・電話番号・メールアドレス - 事業についての情報
どんなを商品を販売するのか。顧客は誰か。商品の価格と販売予定個数について。販売方法について(もしインターネットによる販売なら、そのWEBサイトの情報も記載すること)。 - 市場分析
商品の需要をどのくらい見込むことができるのか。 - ファイナンスの計画
初期投資や運転資金について。金額と調達方法。
コストはいくらぐらいかかるのか。
金融機関等からの融資がある場合には、その内容も記載する。 - 契約書のコピー
すでに顧客や取引先が決まっている場合、仮契約の書類のコピーも一緒に提出すること。 - 推薦状
事業に将来性があることを証明してくれる人がいる場合。 - 民間の健康保険に加入してる場合は、その証明書
基本的に、事業計画書は、明日にでも事業が開始できるような具体性をもって書いた方が、申請が通りやすくなります。
繰り返しになりますが、「居住・自営業許可証」を得られるかどうかは、この事業計画書が大きなカギになります。
この書類を詳しく、具体的に書くことが大切になります。
そのためにも、前述の利益団体の相談窓口なども、上手に活用しましょう。
書類の提出場所と取得の可否がわかるまで
提出場所は2通り
必要書類の提出場所についてですが、まず、もしも日本国内に住んでいる場合は、日本にあるスペイン大使館に必要書類を提出することになります。
また、すでにスペインで暮らしている場合には、最寄りのスペイン内務省外国人局(Extranjería)に書類を提出します。
取得可否は3ヶ月が目安
申請後、「居住・自営業許可証」の取得の可否がわかる期間は、必要書類を書類を提出してから約3か月ほどで、「居住・自営業許可証」の申請が認められたかどうかがわかります。
「居住・自営業許可証」の取得が認められた後の手続き(日本国内)
在日本スペイン大使館を通じて「居住・自営業許可証」の申請をした場合も約3か月ほどで、申請の結果を受け取ることになります。
もし、申請が通った場合には、その結果を受け取った日から1カ月以内に次の書類を再度、在日本スペイン大使館に提出しなくてはなりません。
- パスポート
- 無犯罪証明書
- 医師による健康診断証明書
- ビザ発行の手数料を支払ったという証明書(銀行発行の領収書)
この4種類の書類を提出してからまた1か月ほどで、「居住・自営業許可証」が貼られたパスポートを手にすることができます。
あとは、そのパスポートを手にしたら、3か月以内にスペインに入国しましょう。
「居住・自営業許可証」の取得が認められたあとの手続きについて(スペイン国内での手続き)
スペインに入国してからも、この国で事業をするために必要な手続きはまだまだ続きます。
具体的には、
- 社会保険料の支払い
- 税金の支払手続き
をしなくてはならないのです。
1. 外国人局へ行く
最初に、スペインに入国し、目的の街に到着したら、その地域にある外国人局へ行きましょう。
そのときには、「居住・自営業許可証」の貼られたパスポートを持っていくことをお忘れなく。
2. 税務署へ行く
その後、税務署(スペイン語ではデルガシオン・エコノミア・イ・アシエンダ:Delegación Economía y Hacienda)へ行き、事業者としての税務登録をしなくてはいけません。
ここでの手続きはさほど難しくはなく、現地で受け取る書類に、必要事項を書き入れ、提出するだけです。
税務署での手続きを終えると、その場で書類の控えを受け取ることになります。この控えはなくさないようにしてください。次の手続きに必要になります。
3. 社会保険庁へ行く
税務署での手続きを終えた後は、最寄の地域にある社会保険庁(スペイン語ではデルガシオン・プロビンシアル・デ・ラ・セグリダド・ソシアル:Delegación Provincial de la Seguridad Social)へ行きます。
ここで、自営業者として、社会保険を毎月支払うための手続きをするのですが、このとき、前述の税務署での手続きの控え書類とパスポートのコピーを提出します。
ちなみに、社会保険庁でのこの手続きも、決して複雑なものではなく、受付した当日中に終了します。
社会保険庁での手続きが終わると、やはり、控えの書類を受け取ることになります。この書類もなくさないようにしてください。
4. 再度外国人局へ行く
社会保険庁での手続きが終わったら、再度外国人局へ行き、社会保険庁で受け取った控えの書類を提出します。
その時、また一緒に、「居住・自営業許可証」の手数料も支払うことになります。
これで、手続きは本当に終わりです。
この最後の手続きから1か月ほどで、身分証明書として利用可能な、「居住・自営業許可証」を手にすることができます。
スペインに合法的に3年以上住んでいる人は直接スペイン内務省外国人局へ
もしも、スペインに合法的に3年以上住んでいる人が、「居住・自営業許可証」を申請する場合には、『「居住・自営業許可証」の取得が認められた後の手続き(日本国内)』の必要がなく、直接自分の最寄りのスペイン内務省外国人局(Extranjería)に書類を提出します。
その場合、提出する書類が日本国内から申請する場合の書類と少々違うため、Ministerio de Trabajo, Migraciones y Seguridad Socialで確認することをお勧めします。
なお、申請が受理された後の手続きは『「居住・自営業許可証」の取得が認められたあとの手続きについて(スペイン国内での手続き)』と同様になります。
「居住・自営業許可証」の更新手続きについて
ちなみにこの許可証は、永住権を保証するものではありません。
許可証には有効期限が存在します。
許可証の有効期限は、最初の2年間は1年ごと更新手続きをする必要があります。
つまり、最初の2年間で、2回の更新手続きをしなくてはいけません。その後は5年後ごとの更新手続きになります。
詳しい情報は
スペイン政府の労働・移民・社会保険省(Ministerio de Trabajo, Migraciones y Seguridad Social)のサイトをご覧ください
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