高福祉国家であるデンマークでは、教育に対しての援助も充実しており、日本からも高い関心が向けられています。
しかし実際のところ、日本のものとどう違うのでしょうか。
2人の子供をインターナショナルスクールに通わせている筆者が、日本からデンマークに移住を考える際に気になる、教育の考え方の違いや、学校の選び方などについて、現地初等教育の様子を中心にご紹介いたします。
デンマーク教育の仕組み。「自主性を育む」ユニークな体制は幼児期から始まる
幼稚園まで
デンマークの「自主性を育む」ユニークな教育体制は、幼児期の頃から始まります。
幼稚園・保育園では、年齢の区別をせず、園内の小さなコミュニティの中で、子供たち同士の社会性を育みつつ「人生の素晴らしさ」と「生き抜く力」を身につけさせます。
自然にあるもので、子供たち同士でコミュニケーションをとりながら(たまにはケンカをしながら)遊びを見つけ、親や先生はそれをサポートし、見守ります。
日本では、子供たちがケガしないように大人が介入することが多いように思いますが、デンマークではよほどのことがない限り、大人は介入せず、子供たちの間で問題を解決させます。
既にこの頃から主体性を持たせる教育が始まっているのですね。
小学0年生ープレスクールという存在
デンマークのユニークなところの一つがプレスクールの存在です。
デンマークの幼稚園・保育園では、前述のように、いわゆるモノ書きといった類いの勉強は児童に強いません。
これまで、どこでも好きなところで遊ぶことを許されていた彼らに、少しずつ「教室で勉強する」ということに慣れてもらうため、小学生になる前に、「小学0年生」という学童期間を設けます。
この1年間で学校・クラス単位での集団行動や、勉強に備えて準備をします。
小・中学校の「義務教育」期間
デンマークには9年間の義務教育があります。
この義務は、親に対しての「子供に教育を受けさせる義務」であって、その場は必ずしも学校である必要はありません。
自宅や親同士で作った私設学校(フリースクール)での教育も認められています。
とはいえ、公立学校の学費は全て国負担ですので、多くのデンマーク人は公立学校に入ります。
学校では、画一的な教育ではなく、生徒個々人の強みを活かすことに注力し、一方で子供たちは、学校を卒業するまでに自分自身で将来就きたい職業を定め、その目的に合わせた進路を選択します。
進路には学校内の成績が反映されるため、早い段階から子供たちは自分の将来を見つめつつ、自分の意見をはっきりと述べる力が身につくよう、グループワークなどを中心とした教育を受けます。
・体験談
筆者の子供は、小学校低学年でデンマークに移住して、デンマークのインターナショナルスクールに転入しました。
日本では、席に着いて、先生のお話をよく聞き、質問に的確に答えることが「いい子」とされるところがありますが、こちらの学校は、インターナショナルスクールに限らず、自分の意見を主張し、「授業に参加する」ことを子供たちに求めます。
「どんなことに興味があるのか」
「得意なことは何?」
ということを子供たちや親から発信することを先生たちは情報として求めます。
子供たちにとって、まずそこで大きな壁を感じていました。
言語の問題というよりも、文化の違いの方が大きかったように思います。
ギャップイヤー「10年生」
9年間の義務教育終了後、希望する生徒は「10年生」に進級が認められています。
日本では「留年」というあまり良い印象のない言葉にまとめられますが、デンマークではギャップイヤーと言われるこの期間で、自分が進むべき進路をじっくり考えます。
大学・大学院に進むことを踏まえて学問・研究など専門性の高い道に進むか、就職もしくは職業訓練校、専門学校に進み、自分のやりたい仕事を究めるか、多くの生徒はこの期間を有意義に使い、自分の将来について深く考えます。
一貫して生徒自身の主体性を重視したシステムであるといえます。
高校・大学進学
デンマークには入学試験が基本的にありません。
ギャップイヤーを含めた10年間の学校の成績でどの学校に行くかが決まります。
勉強が好きな生徒は、高校・大学と進学します。義務教育だけでなく、高校・大学まで学費は無料です。
一方、進学しない学生は、就職したり、職業訓練校や専門学校に進み、早くに専門技能を身につけ、それぞれの一線に出て活躍します。
個々人がやりたいことを職業にし、お互いの専門性を存分に発揮することで、それぞれの幸福感を得つつ、機能的な社会を作っている国、それがデンマークのシステムだといえます。
思うようにいかなかったら?大学に入り直すこともできる
このシステムは一見理想的にも思えますが、大学に進んだ後、想像と違う現実に気づくことだってあります。
そのために、大学では途中で専攻の変更も可能で、大学に入り直すことも認められています。
希望する大学に行けない、自分のやりたいことができない状況になった時は、フォルケホイスコーレなどで、再び時間をかけて、自分のやりたいことを見つける、ということも一般的です。
関連記事:デンマークでのフォルケホイスコーレ留学7つの魅力。費用や英語環境も解説
国による失業補償がしっかりしているのもあり、何度も転職をして、自分に本当にあった生き方を見つけることが許されているのだともいえます。
デンマークではテスト・宿題がない?学校での教育方法
成績評価はどうしているの?
先に、大学などの入学試験がないことを述べました。
デンマークでは、子供たちそれぞれの「幸福」を特に重視するので、学校教育で競争させることをあまり好みません。
学校のテストも以前はまったく行われていなかったようです。
現在では、ある程度の学力維持と、現状の理解度をはかるため、どこの学校も学力テストを取り入れています。
しかし、テストの成績・順位が公表たり、結果が進級に影響するということはありません。得意、不得意を教師・本人・親が把握して今後の勉強プランにつなげる、程度の扱いです。
学年末には通知表があります。
成績評価は、テストの点数評価は参考程度で、
- クラスでの理解度が2割
- 学校での生活態度が2割
- そして大半をしめるのが積極的に自分の意見や意思を述べることができたか、グループワークにおけるプレゼンスの評価
で行われます。
日本の小学校に比べると人前で発言する機会の多さや、グループディスカッションの多さに驚かれるのではないでしょうか。
グループワークを中心とした教育方法
グループワークでは、子供たちは、先生から教わるだけでなく、自分で選んだテーマを調べて、それを別のグループなど他の生徒に教える「先生役」になることもしばしばです。
Teaching is the best way for learningという言葉もありますが、教科書を読むだけでなく、教える側に回ることで、さらに理解を深めつつ、相手への伝え方なども経験から学んでいきます。
筆者の子供たちはテーマが与えられると、図書館の本やインターネットを使って調べ、パソコンでプレゼンテーションを作っています。
ICT教育(パソコンやネットを使った教育方法)も学校で並行して行われているので、小学校低学年でもパソコンでポスターを作って発表する機会があります。
発表をクイズ番組のような構成にするグループもあり、自由な発想をサポートする教育現場にいつも感嘆させられます。
海外の素晴らしいプレゼンテーションは、こうやって子供の頃から鍛えられているのですね。
算数などの教科にしても、コンセプト説明などは全体に対して行われますが、その後の大半の時間は、小さなグループで話し合いながら問題を解いたり、理解の早い子供たちは、わからない子を手伝い、発展問題を出し合ったりします。
算数が苦手な子には、先生がついて、その子のペースでゆっくり指導する、など、個々で学習ペースはマチマチなのが当たり前です。
グループワークでは意見を出し合い、先生と議論を戦わせるなんてことも頻繁にあります。
机に突っ伏して黙々と課題に取り組む、ということはごく稀で、床に寝転がって問題を解き、教室の外のベンチでくつろぎながら本を読んだり、日本の勉強風景とはだいぶ違います。
写真は算数の授業時間の風景ですが、日本から来た当初の筆者家族には大きなカルチャーショックでした。
子供たちにも、それぞれ集中しやすい、勉強しやすい形があるのは当然で、今では筆者の子供たちも柔軟に受け入れています。あまり寝転がるところまではしないようですが。
日本人親としては、この違いを受け入れつつも、日本に帰る際のことを考えて、日本での「常識」を子供たちに伝えることも忘れないようにしています。
宿題がありません!
もうひとつ、日本の子供たちにとっての学校生活で大きく違うもの、それは「宿題がほとんどない」ということです。
まったくないわけではありませんが、日本の小学生がしている量に比べたら、ほとんどないに等しいです。
大人が仕事後のプライベートな時間を大事にされるように、子供たちも学校外では彼ら自身のプライベートや家族との時間が重要視されます。
金曜日、週末には宿題はまったく出されません。
みんな違ってみんないい。デンマーク教育の長所と日本からみた問題点
日本と比べたデンマークの学校での学習レベルは、まったく違うと言ってもいいでしょう。
そもそも教育に対する考え方が違うので、比べるのもナンセンスではあるのですが、違いを列挙してみましょう。
日本 | デンマーク | |
---|---|---|
使用言語 | 日本語 | デンマーク語、英語 |
教育の基本方針 | 将来役に立つ(困らないよう)基礎知識を身につける | 得意なところを伸ばし、その個性を活かす |
教育方法 | 教壇から教師が生徒に教える(トップダウン式) | 生徒の「知りたい」を引き出し、自分で調べることをサポートする。生徒が「先生」となり他の生徒に教える |
教育の生徒間格差 | 画一的な教育方法により、同学年で大きな格差がない | 個々の学習レベルはマチマチ。得意な科目と不得意科目がはきりする |
受験・学歴と仕事との相関 | 受験で合格し、自分の好きな進路を獲得していく。学歴が将来の収入に影響 | 受験はない。自分の好きな進路を自分で選択していく。学歴と将来の収入に相関はない |
大人になってからの基礎学力 | 学校で教わったことを平均的に(常識として?)知っている | 学校での教育レベルがマチマチで、知識に偏りがあり、人によって常識が違う(足りない知識は他人に聞く) |
まず、デンマークでも授業はデンマーク語が主に使われますが、小学校の早い段階から第2言語としての英語教育が行われるのが一般的です。
小学校高学年頃には日常会話には困らないレベルです。
カリキュラムとしては言語、算数、歴史など幅広く設定されていますが、何を勉強したいかは子供たちの主体性に任せられているところが大きいです。
子供たちが関心を持ったことを教員や親がサポートし、子供の好奇心を伸ばします。
日本の教育に比べると、自分の意見を述べる機会が多く、よりプレゼンテーションスキルを身につけることができます。
一方で、デンマークの教育システムで指摘されている問題点
学校の教育レベルは、特に算数などに関しては、世界的に見ても高い水準とは言えないようです。
デンマークの学校は小中一貫校が多いので、小学生でも知りたければ中学の教師から高レベルの勉強を受ける機会はありますが、一般的なクラスでは日本よりも1~3学年程度低いレベルの授業であると言われています。
学校で受ける教育水準がマチマチなので、個々人の知識レベルにも偏りがあります。
しかし、デンマークの人たちは、それを単に「個性」と受け取り、足りない部分はお互いの得意で補い合って協力しながら生活するのが習慣として染み付いているので特に困ることはないようです。
日本では「常識」という言葉をよく耳にする気がしますが、デンマークに来て「常識」とは何か深く考えさせられます。
みんな違ってそれでいい。それがデンマークスタイルです。
勉強するもしないも、子供たち自身で決めることであって、学校の成績や受験の結果がその後の進路や収入に影響を与えにくいデンマークだからこそ成立するシステムだと思います。
日本の高競争社会ではなかなか馴染まない考えですが、一部参考になるところはあるのかもしれません。
日本人がデンマークへ移住したらどの学校に行かせるべきか?
日本人家族の移住でお子様の学校選びは迷うところだと思います。
- どの程度の滞在期間を考えているか
- 将来日本に戻るのか、
などによって、どこが最適かは変わってくると思います。
使用言語や教育レベル、音楽や芸術などに強い私立学校、国際バカロレア認定校など、将来国際的に有用な資格が取得できる学校なども選択肢に加わってきます。
インターナショナルスクールは、その体質上、世界中からの転勤家族受け入れの経験が豊富で、言語的なサポートはもちろん、子供たちの学校生活やメンタル面でのサポートも充実しているところが多いように思います。
学校内で多文化に触れられるのも子供・親ともに得難い体験です。
現地校ではデンマークの生活・文化に密着した経験を得ることができますし、長期滞在を見据えた場合のデンマーク語習得環境としては最高です。
国からの補助も受けられるため、時間的、経済的な余裕を他のアクティビティに活かすことも考えられます。
現地校、インターナショナルスクール、フリースクールなど選択肢は多様ですが、学校は、あくまで様々な社会経験を積んで、子供たち自身の「やりたい」を見つける場所として考えることもできます。
日本より転校に対して自由ではありますが、子供たちの柔軟性を信じて、ココと決めたところでやっていくのが良いのかもしれません。
将来、日本の学校に戻ることを考える場合には、学校での学習に加えて、特に算数など、日本の学習レベルを維持できる環境が必要と思われます。
コペンハーゲンやオーフスなど一部の都市には日本人補習学校があり、週末に日本の教科書と日本のカリキュラムに沿って勉強をする機会があります。
また、学校の勉強とは別に、インターネット教材の利用や、日本から通信教育教材を取り寄せ、漢字や算数の勉強をすることも考慮に加える必要があるかもしれません。
日本で義務教育学齢期にあたる子供には、大使館または(公財)海外子女教育振興財団から教科書の配布があるので、補助教材と合わせて勉強も可能です。
体験から得たデンマーク教育の特徴まとめ
日本からデンマークに転入した子供たちの学校生活を目の当たりにした筆者の視点から、日本とデンマークの教育システムの違いをご紹介しました。
考え方や文化の違いがあり、一概にどちらかの良し悪しを述べることはできませんが、その違いを認識しつつ、お互いの良いところを取り入れていけるのは、違う国に住む際の一つの魅力かもしれません。
お子さんにとっては、国内での転校以上に大きな変化を余儀なくされる海外での学校生活ですから、できるだけの準備はしてあげたいものです。
この記事が、デンマーク移住を考えるにあたって、学校選びや、子供たちの新天地での心づもりに、少しでも助けになれば幸いです。
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