フランスというとエリート社会・エリート教育というイメージを持つ人が多いかもしれません。
学んだことと将来のキャリアが強く結びついているフランスでは、どんな教育を受けるかによって大きく将来が変わってきます。
また一方で、日本とは違い大学ごとのランクに大きな差があるわけではないので、「どこの大学を卒業したか」よりも「大学で何を学んだか」が、就職をする際に大きく重視されます。
そのため、どの教育機関を選ぶべきなのか、何を学ぶのか、自分の将来のキャリアを考えてしっかり選ぶ必要があるのです。
この記事では、そんなフランスの教育システムを徹底的に分析してみました。
【フランスの関連記事はこちら】
↑フランス滞在に役立つこちらの情報もご覧ください。過去の記事一覧はこちら
初等教育(Ecole élémentaire)
日本 | フランス |
---|---|
小学校1年 | CP |
小学校2年 | CE1 |
小学校3年 | CE2 |
小学校4年 | CM1 |
小学校5年 | CM2 |
(出典:フランスニュースダイジェスト)
6歳から始まる義務教育です。5年間の教育で、日本では小学校にあたります。
授業は週24時間となっており、通学には親やベビーシッターが安全面から送り迎えをするのが普通となっています。
CPではフランス語や社会、算数、音楽、美術、体育などを学びます。
CE1からはこれに言語のクラスが加わり、英語やドイツ語など(地域によって異なる)を学びます。
CE2以上になると文学、地理、歴史、理科、工芸などの授業も加わります。
また、この初等教育以降の義務教育では、生徒の能力に応じて飛び級や留年の制度が導入されます。特に飛び級自体は珍しいことではなく、年齢が低い子が混ざっているクラスが多くみられます。
中等教育前期(Collège)
日本 | フランス |
---|---|
小学校6年 | 6ème (Sixième) |
中学校1年 | 5ème(Cinquième) |
中学校2年 | 4ème(Quatrième) |
中学校3年 | 3ème(Troisième) |
(出典:フランスニュースダイジェスト)
4年間の教育課程で、日本の小学校6年~中学校3年にあたります。
科学や化学の授業が加わり、また言語の授業もより幅広い選択肢の中から言語を学べるようになります。
6èmeでは英語の授業が本格的にスタートし、4èmeになるとスペイン語やドイツ語、イタリア語などから学びたい言語を選ぶことができます。
例えばアルザスの地域ではドイツに近いことからドイツ語を選択する生徒が多いようです。
また、3èmeにはこれまでの成績や自分の興味に応じた進路相談が行われ、本格的に分野が分かれてくる中等教育後期(Lycée)に向けた進路指導が始まります。
最終学年ではテストを受け、テストに合格すると国家資格である中等教育終了資格証書(Brevet)を受け取ることができます。
中等教育後期(Lycée)
日本 | フランス |
---|---|
高校1年 | Seconde |
高校2年 | Première |
高校3年 | Terminale |
(出典:フランスニュースダイジェスト)
3年間の教育課程で、日本の高校にあたります。
この過程では3種類のLycéeから自分の進路に合わせたLycéeを選びます。
以下が3つのLycéeの違いになっています。
ほとんどの学生がLycée généralに進学し大学を目指すのが現状のようです。
普通教育課程(Lysée général)
大学を目指すためのLycée。
工業高校(Lysée technologique)
工業の専門的な知識を身に着けるためのLycée。
職業高校(Lysée professionnel)
パンや製菓、建築などの専門知識を身に着けるためのLycée。
(参考:フランスニュースダイジェスト)
1.普通教育課程
この教育課程では大学進学を目指す学生が集まるため、大学入学試験(バカロレア)に向けた教育となります。
自分の興味に合わせて文系littéraire (L)、経済・社会系économique et sociale (ES)、そして理系scientifique (S)の3つに分かれ、それぞれのクラスを受けます。
エリート意識の強いフランスでは、S、すなわち理系が最もハードで、将来のエリートになると期待されるコースであり、Lである文系が最もゆるいコースと考えられているようです。
一年目のSecondeでは60%の授業がS,ES,L関係なく共通で、残りの40%が自分の選択コースに合わせた選択授業になります。
選択授業にはアートや科学、エンジニアリング、経済学などがあります。
また、Seconde からPremièreに進学する際、フランス語の試験(筆記・口頭試験)とTPEと呼ばれるグループプレゼンテーションの試験があります。この点数はバカロレアに加算されます。
そしてTerminaleの最後にはバカロレアを受けます。飛び級や留年をしていない場合、18歳で受験することになります。不合格であればTerminaleをもう一年行わなければなりません。
バカロレアに合格すると、行きたい大学の学部に願書を送ります。大学によって、特に私立の大学では個別の入学試験を行うところもあります。個別の入試試験がない大学では、願書を出し入学許可をもらえれば、その大学に入学することができます。
2.工業高校
将来の職業に使える実践的な技術を学ぶことができる、専門分野に重点を置いた教育機関です。
経営科学、工業化学、実験科学、音楽、ダンスなど様々な工業高校があります。日本でいうと専門学校のような教育機関です。
授業の内容は半分程度が技術的なこと、残りは普通教育課程と同じような内容を学びます。
3.職業高校
就職希望者を対象とした2~3年間の教育機関です。
職業資格を取得するための教育が行われ、国家試験に合格すれば職業適格証である「CAP」や職業教育免状である「BEP」を取得することができます。
料理や工芸、とび職など職人業に関するものはCAPの資格となることが多く、フランスの食文化を支えるチョコレート職人にはこのCAP保持者が多くいます。また経理や秘書などの事務職はBEPが多くなっています。
この職業高校は、就職のための教育課程であるため、働きながら学校に通う形態が多くみられます。
例えば、とび職のような建築系の職業高校に行く場合、中等教育前期の最終学年であるTroisièmeの終了時に、将来働ける企業を探さなくてはなりません。
そして企業を見つけたら、毎月1週間のリセでの授業を除き、その企業で働きます。最低2年働きながら勉強することが必要で、教育課程が修了すればその企業で正式に働くことができます。
高等教育
高等教育には大きく分けて大学(Université)とグランゼコール(Grande École)の二つがあります。
大学では広範囲な知識を学ぶことが目的なのに対し、グランゼコールは官僚などのエリートを養成することが目的になっています。
1.大学
バカロレアに合格すれば、原則として大学に入学することができます。
大学によっては個別の入試を受けなければならないところもあります。
学士(licence)は3年、修士(master)は5年、博士(doctorat)は8年間の研究教育が必要となっています。
修士はMaster1、Master2と別れており、二つの異なったマスターを取る人も少なくありません。
フランスでは大学院までの授業料は無料であるため、修士号まで一気に取ってしまう学生がほとんどとなっています。
また、修士課程ではインターンシップが含まれていることが多く、将来の就職を意識した教育課程となっています。
そのため、就職時には修士課程を修了していることがスタンダートとなっているのが現状です。
一方ドクターはかなり専門的な分野を極めたい人がいくことが多く、一部の学生のみが進学します。
フランスではドクターを取得している人には高い給料を払わないとならず、企業はドクター取得者をあまり雇用したがりません。
そのためフランスで就職したい場合は修士課程までの取得がおすすめです。
・フランスの大学関連記事
- フランスの大学ランキング!入学手続きの方法、費用も解説
- フランスの大学留学費用はこれで全部!生活にかかるお金を把握しよう
- ソルボンヌ(パリ第4)大学修士課程への正規入学方法
2.グランゼコール
グランゼコールはフランス革命時に、国を率いる管理職や幹部層を養育する目的で創設された教育機関であり、フランスの高等教育の中でも特別な教育機関として認識されています。
技術や商業、政治の分野におけるエリートを排出し、政治の学校であるENAはフランス大統領を輩出していることで有名です。
このグランゼコールに入るためには、Lycée終了後 Classes préparatoiresと呼ばれる準備学級にまず入る必要があります。
このクラスに入るために書類選考や試験を受けなければならない場合もあります。
このクラスは1年または2年間で、グランゼコールの入試に向けた準備を行います。
グランゼコールの入学試験で課される様々な科目を学び、非常にインテンシブでハードな教育を受けます。
この準備学級は、理系の学生が最も多く進学先として選ぶとされ、その次に経済・社会系の学生が多いとされます。
準備学級修了後はグランゼコールが個別に課している入試を受けなければなりません。非常に競争率が高く、準備コースを終えてもグランゼコールへの入学をあきらめ、大学へ進学する学生もいます。
学費
フランスの教育システムは、機会の平等という概念に基づいています。
教育を受ける機会を平等にするために、国が多くの予算を割いて研究費などの負担を行っているのです。
そのため、学生は少しの学費を払うだけで高等教育を受けられるような環境が整っています。
義務教育の学費は非常に安く、大学まで授業料は基本的に無料です。
公立大学ならば三万円ほどの登録料と社会保障絵の登録料を払うのみで、合計六万円ほどで進学をすることができます。
一方、私立の学校やビジネススクールの学費は公立大学よりもかなり高く、グランゼコールの場合、授業料だけで45万円~70万円かかる場合もあります。
しかしながらフランスでは返済費用の奨学金や給与制度が豊富で、学生を学費、生活費、滞在費など様々な場面で支援する制度があります。
まとめ
フランスの教育制度は、Lycée の段階から進路に応じた選択肢を選ばなくてはならず、教育機関や教育課程も様々です。その中から自分のキャリアにあったものを選り、学んでいくシステムとなっています。
グランゼコールを除き、大学間のヒエラルキーは日本ほど大きくなく、大学入試もあまりないため偏差値といった概念もありません。
しかしながらエリート養成機関であるグランゼコールはやはり別格の存在であり、そこで学ぶ学生は将来フランスを引っ張っていく官僚や政治家としての将来を期待されています。
このように、何を学ぶか、どのような教育を受けるかということは、フランスでは非常に重要なことであり、それが自分の将来を決めるといっても過言ではありません。
フランスでの就職を考えてフランスの学校への進学を考えている方、もしくは自分のお子さんをフランスの学校に進学させようとしているご両親の方は、自分自身が、またはお子さんが将来本当にやりたいことは何なのか、ということを考えることが最も重要なことだと思います。
【フランスの関連記事はこちら】
↑フランス滞在に役立つこちらの情報もご覧ください。過去の記事一覧はこちら