世界銀行が2017年2月に発表した持続可能エネルギーについての報告書(Regulatory Indicators for Sustainable Energy)によると、デンマークはエネルギー効率や持続可能エネルギーなどの点が評価され、100点中94点を獲得し、アメリカやカナダを押さえて世界1位に輝きました。
これは、長い間実施されてきたエネルギー政策のたまものと言えます。
持続可能エネルギーの先進国として、風力発電やバイオ発電を積極的に取り入れ、今やデンマークのエネルギー政策は世界から注目を浴びています。
では、実際はどのようなものなのでしょうか。
今回はデンマークのエネルギー政策、特に持続可能エネルギーについて見ていきたいと思います。
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風力発電の割合が42.1%
デンマークのエネルギー政策の根幹は、石油・石炭・ガスなどの石化燃料に依存しないこと、エネルギー自給率を100%にすることにあります。
そのため、風力発電やバイオガス発電などの持続可能エネルギーが積極的に取り入れられているのです。
中でも、デンマークの象徴とも言える風力発電の割合は非常に高く、2015年には42.1%に達したという驚くべき数字が発表されています。
デンマークで風力発電が盛んなのには、その地形が大きく関係しています。
デンマークは平坦な国で通称「パンケーキの国」。
山が連なる日本からは信じられないことですが、デンマーク最高峰はなんと170.8mなのです。丘と呼んでもいいくらいの高さですが、このおかげでデンマークには年中強い風が吹いています。
この自然からの贈り物を原動力として、デンマークでは電力を賄うことができるのです。
風車のほとんどは個人所有
現在デンマーク国内に設置されている風車の数は6000基を超えています。
そしてその8割近くが個人所有となっているのが驚くべき点です。
個人といっても、協同組合の組合員ですが、そのしくみを簡単に説明しましょう。
まずは組合に加入し、設立予定の風車に出資します。
それをもとに風車が設置され、そこから発電された電力は、自家消費ではなく電力会社に買い取ってもらいます。
最終的にはその買い取り金額が出資口数に応じて配分される、というかたちになっています。
こうした配当金という分かりやすいかたちで個人に還元されることで、国民の風力発電への理解、環境問題への意識も上がり、風車の増加につながったと考えられます。
2023年までには石炭火力発電を廃止
デンマーク国内の石炭による発電量は、風力発電に次ぐ2番目の規模です。
しかし、これ以上石化燃料に頼らず、持続可能エネルギー政策を進めるため、政府は2023年にその石炭火力発電を止める方針を発表しています。
また、デンマークは北海油田を所有し、天然ガスや石油の産出もありますが、それぞれの発電量の割合は天然ガスは12%、石油においてはたったの1%です。
この2つはあくまで持続可能エネルギーのサポートとして、また輸出用として捉えられていることが分かります。
デンマークのエネルギーの主役は持続可能エネルギーなのです。
バイオ発電も盛ん
これまで見てきたように、デンマークでは風力発電が注目されがちですが、実はバイオ発電も盛んなのです。
家庭や工場、農場などから出るあらゆる有機廃棄物をもとに発電し、地域に供給されています。
バイオガス発電の利用方法は、主に地域暖房の熱源です。
地域暖房とは、地域の中心に熱源を置き、そこから熱がパイプを通って各家庭の暖房に送り込まれる、というシステムになっています。
どの家庭にも備え付けの暖房設備があり、だいたい10月の末から11月になると暖房が入るようになります。
バイオガス発電所は国内に大小合わせて80ヶ所ほどあります。
また、国内最大のバイオガス発電所Lemvig Biogasでは、年間3300万kwhも発電されているそうです。これは住民2万2千人分の年間の暖房費を賄うことができる量とのことです。
廃棄物はまずはリサイクルに
リサイクルへの意識が高いのもデンマークの特徴です。
1997年に施行された、焼却に適する廃棄物の埋め立てを禁止した法律のため、廃棄物はできるだけ多くをリサイクルすることが重要とされています。
そのため、家庭から出たゴミも、まずはリサイクルや再利用ができるものはそちらに回されます。
段ボールや包装などの紙ゴミ、プラスチック、金属類などです。
また、生ゴミは有機廃棄物として、前述のバイオ発電や有機肥料になります。
そのあと残ったものが、可燃ゴミとして焼却され、最終的に残ったものが埋め立てに回される、というしくみです。
焼却しても埋め立ても、大気や土壌、地下水に影響を与えてしまいます。
デンマークではできるだけ環境を汚さない方法がとられていることが分かります。ちなみに焼却の際に出た熱も、発電と地域暖房に利用されています。
エネルギー政策の背景
背景その1・石油ショック
こうした活発な持続可能エネルギー推進の動きの背景としてあげられるのが、石油ショックです。
それまでのデンマークの石油依存率は89%というとても高いものでした。
しかし、石油ショックで石油の確保が難しくなり、国内では電力不足が問題になったのです。
この時期から風力発電が注目されるようになりました。風力発電のアイディア自体は古く、今から100年以上前の1891年に、ポール・ラクールという人が風車の開発をしています。
そこから発想を得たことと、もともと自然への関心が高い国民性もあり、風力発電が石油に代わるエネルギー源として脚光を浴びるようになりました。
背景その2・原子力政策の廃止
もうひとつの原動力は、原子力政策へのNOです。
実はデンマークでも原子力政策が推し進められた時代があります。
第1次石油ショックを受けて、1976年には「原発法」が議会を通過、これにより国内15ヶ所に原発を建設しエネルギーを確保する計画が持ち上がりました。
しかし世論は反対の声が多く、環境NGOによる署名活動や5万人以上も参加した大規模なデモ行進などの活動が激しくなり、1985年には原子力政策は取りやめとなります。
そしてなんとも運命的ですが、その翌年の1986年、当時のソ連でチェルノブイリ原発事故が起こります。これを機に世論は一気に風力発電推進へと向かっていったのでした。
今後の展望
陸上、洋上、あらゆる場所に設置された風力発電装置は、今やデンマークのエネルギー源として重要な役割を担っています。
余剰電力は周辺諸国へ売却され利益を生み出していますし、風車は最大の輸出産業として発展しました。
こういったことから、今後の政府のエネルギー政策には、まずは2020年までに風力発電の割合を50%にまで上げることが掲げられています。
現在、ますます風車の数が増加していることを見れば、あと3年しかないとはいえ、実現可能であろうことは伺えます。
近年の著しい環境の変化は世界を取り巻く大きな問題です。
デンマークは政府をはじめ、環境に関する民間会社やNGOの数が多く、そして個人レベルでも環境への関心がとても高い国です。
デンマークは今後、風力発電をはじめとするクリーンなエネルギー政策で世界をリードしていく存在となることでしょう。
まとめ
さて、今回はデンマークのエネルギー政策について詳しく解説してきましたが、いかがでしたか。
デンマークのコペンハーゲンに飛行機で近づくと、洋上に風車が何基も連なって並んでいるのを見ることができます。
日本ではあまり見ることのないこの光景はなんとも圧巻です。街を歩くと自転車の数が想像以上に多く、整備された自転車専用道路には驚くことでしょう。
デンマークデザインや建築も見ものですが、エコロジーの観点から見たデンマークもまた面白くあります。
ぜひ実際にデンマークに来て目にしてもらいたい光景のひとつです。
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