毎年発表される世界幸福度ランキングで上位国の常連となっている北欧の国・スウェーデン。
そんなスウェーデンの制度や価値観を紐解いて、心豊かに人生を生きることについて考えてみませんか?
今回は、働き世代の方々に向けて、働く人が「自分らしく生きる」ためのスウェーデンのちょっとユニークな休暇、tjänstledighet(シャンステレディグヘット)をご紹介します。
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Tjänstledighet(シャンステレディグヘット)とは?
Tjänstledighetは、英訳するとLeave of absence、すなわち「休職」という意味です。
具体的には、今働いている会社の外で、個人的にやりたいことがある場合にとれる休暇のことを指します。
会社勤めの人がこの休暇をとることができるのは、基本的には下記の3つの目的に使う場合です。
- 勉強のため
- 起業のため
- 家族の介護のため
この通り、Tjänstledighetは、怪我や病気などで働けなくなったときにとるシックリーブ(病気休暇)や、リフレッシュを目的にしたバカンスなどのためにある有給休暇とは全く別のものです。
今回はこれら3つの主な目的のうち、1(勉強のため)と2(起業のため)にフォーカスします。
会社を辞めずに、個人的にやりたいことに挑戦する
何事においても、自分のやりたいことを軸に
「自分で決める」
ことを重視するのがスウェーデン流。
例えば、会社に入ってからのスキルアップもキャリアパスも、会社任せにするのではなく「自分でデザインする」というのが一般的な考え方です。
当然ながら、社会人になってからのスキルアップは、会社の中だけでするものではありません。
日本でも、将来のキャリアプランや目標に対して足りない知識やスキル、または資格を得るために、大学の社会人向け講座に通うなどしてスキルアップを図る人も少なくないでしょう。
その場合、仕事と両立するために業務時間外の夜間や週末にまとめて勉強するというやり方が日本では一般的なのではないでしょうか。
プライベートの時間を大切にするスウェーデンでは、家族や友人と一緒に過ごしたりリフレッシュしたりする時間を削ることはあまり好まれません。
そのため、日中の仕事を一切休んで大学などでの勉強に専念するというケースが珍しくありません。
その時に利用するのが、tjänstledighet(学業のための休職)です。休職中は雇用主からの給料は出ませんが、合意した休職期間が終わると、基本的には休職前と同じ職務に同じ待遇で職場に復帰することができます。
つまり、民間企業で働く会社員でも、政府や行政機関で働く公務員でも同じく、勤め先を失うというリスクをとらずに自分のやりたいことに一定期間集中できるのです。
Tjänstledighetの事例
実際の例をみてみましょう。
筆者の友人のひとりは、大学でジャーナリズムを専攻し、卒業後は大手マスコミに記者として入社しました。
彼女は、経済ニュースを取り扱うようになってから、自身の経済に関する知識不足を強く感じるようになったため、1年間、tjänstledighetをとって(つまり、会社から休暇をとって)大学に戻り、経済学を学ぶ学生になりました。
また別のケースとして、裁判所に勤める筆者の友人は、裁判実務に携わる中で法哲学に関心を持つようになり、休職して法学研究科の博士課程に入学しました。
他には、とあるIT企業の人事部で数年間働いたのち、技術職にキャリアチェンジをするために休職し、現在は専門学校でソフトウェア開発を学び直している知人もいます。
仕事に関係なくてもOK!
Tjänstledighetのユニークな点として、前述の例のように実務に役立つ専門性を高めたり、学び直してキャリアチェンジをしたりといった「仕事やキャリアに直結する動機」がなくてもそれを利用できるということが挙げられます。
つまり、趣味のための勉強でもいいのです。
筆者が知る限りでも、大手メーカーでの生産管理の仕事を休んで長年趣味として楽しんでいた木工芸を学びたいと美術大学に入学したり、税務署での仕事を休んでずっと興味があったサーフィンをハワイで学んだりといった例があります。
勤め先と合意した休職期間があけると、ひとりは元の仕事に戻り、もうひとりは、大学での学びを活かして独立したいと自らの希望で会社を退職し、結果的にtjänstledighetがキャリアチェンジのきっかけとなりました。
会社を辞めずに起業で力試し
学業の他にも、起業のためにtjänstledighetをとって休職し、最大半年間、自分のビジネスに集中することもできます。
例えば、とあるメーカーの販売促進部門で働いているギターが得意な筆者の友人は、30代前半の頃に半年間仕事を休み、プロとして音楽活動に専念していた時期があるそうです。
法律で認められた権利
日本でも、大企業を中心に「サバティカル休暇」などの比較的自由度の高い休暇制度を導入している会社が徐々に増えてきています。
しかし、そうしたごく一部の会社を除けば、自己都合でのこうした休職が認められるかどうかは、日本では会社の裁量に委ねられています。
スウェーデンでは、一定の条件(6ヶ月以上、今の会社で働いたかなど)さえ満たせば、このように新しい経験、知識、スキルを得るために仕事を休んで学業に専念することが労働者の権利として法律で認められています。
また、起業についても、競合企業を立ち上げて現職の会社の利益を損ねるなどがない限り、会社はそれを認める法律上の義務があります。
スキルアップは、働く人の当然の権利なのです。
キャリアのブランク
日本では、休職して職務経歴上に空白期間ができることが、昇進や転職の際にネガティブな影響を持つと考えてしまい、躊躇する人も少なくないとききます。
上記の例に出した筆者の友人たちは、tjänstledighetで仕事から一時的に離れたとしても、学び直しや起業経験、異業種への挑戦、人生を謳歌するその姿勢はむしろユニークな「その人らしさ」としてポジティブな見方をされることの方が多いといいます。
スウェーデンでは、高校卒業直後にギャップイヤーを設けたり、大学入学後に途中で専攻を変えて大学1年生からやり直したりと、社会に出る前の過ごし方も十人十色。
そうした多種多様な学歴や経歴が当然だという感覚は、社会に出てからも変わりません。
そのため、数ヶ月または数年、仕事とは別のことをしていても、それ自体は特に問題にならないのです。
Tjänstledighetの副産物
Tjänstledighetには、新しい雇用を生み出すという側面もあります。
なぜなら、社員の休職中、会社は欠員補充をするために人を採用することが少なくないからです。
とりわけ失業中の方や、まだ職務経験が少ない学生などにとっては、労働市場へのアクセスが増える貴重な機会となるのです。
さいごに
以上、スウェーデンのユニークな休暇、tjänstledighetをご紹介しました。
目まぐるしいスピードで産業構造が転換する昨今、最新の情報や技術に常にアンテナを張って学びや挑戦を続けることは、仕事をし続ける上でますます必要不可欠になっています。
スウェーデンの過去や現在の経験に縛られずに「自分らしく生きる」という価値観が、皆さんのキャリア形成のインスピレーションとなりましたら幸いです。