北欧デンマーク・コペンハーゲンは、日本ではおしゃれな雑貨や家具が人気で、世界でも最も幸福な国のひとつと言われるなど、憧れの場所で、将来移住を考えている方もいらっしゃると思います。
筆者は、コペンハーゲンでやりたい仕事を見つけることができ、日本の仕事を辞め、家族とともに移り住みました。
ここでは、そんなコペンハーゲンに移住して3年で得た経験から、この街で暮らす魅力や実際の生活の様子について触れたいと思います。
1. 使用言語はデンマーク語と英語
海外移住の際には、言葉・意思疎通の問題はまず直面する大きな壁ですね。
コペンハーゲンに住んで、まず安心したことは、「英語が通じる」ということです。
ヨーロッパは各国で母国語が異なりますが、デンマークにもデンマーク語があります。
デンマーク語は、デンマーク人自身もが認める修得が非常に難しい言語で、特に発音が難しいとされています。聞き取りも同様です。
世界に比べても人口が少ないのもあり、諸外国との交流には英語が必須で、それもあって幼少の頃からデンマーク人は英語教育を受けています。
観光地だけでなく、ショッピング、地域のスーパーでの買い物、官公庁・銀行での手続きも、コペンハーゲンの人たちはデンマーク語が使えない相手とわかればすぐに英語に切り替えて話してくれます。
郊外に住む高齢の方でも英語が普通に使えるほどです。
とはいえ、デンマーク人にとっても英語は第2言語。
なので、英語に自信のない人でも、伝えようという姿勢があれば、みんな一生懸命理解してくれようとします。
私は家族での移住でしたが、家族は学校教育での英語だけで、ほとんどまったく英語を喋れない状態で移住してきました。
そんな家族のつたない英語でも、「英語も喋れないのか」と小馬鹿にするような態度を示されたことはこれまでの生活で一度もありません。
アメリカ、イギリスなど英語圏の生活は、英語を普通に使える安心感はありますが、英語が使えるのが当然、というのもどこかにあるので、その点で、第2言語として英語を使えるコペンハーゲンでの生活はとても救われました。
ただし、スーパーのディスプレイなどは当然デンマーク語なので、ある程度のデンマーク語の語彙力は身につけないといけないのですけどね。
2. コペンハーゲンでの移動手段は自転車?
コペンハーゲン生活で、重要な移動手段になるのが、「自転車」です。
市内は、列車やバスなど公共交通機関も十分発達しているのですが、街自体がこじんまりとしているから、ということもあり、市民は、自転車での移動を好みます。
環境保全への意識や国民の健康意識の高まりもあり、「世界で一番自転車に優しい都市」を掲げて国全体で街づくりを進めています。
コペンハーゲン市街地の道路のほとんどには自転車専用レーンが完備されています。中には自動車道よりも広い場所もあるくらいです。
「まるでパンケーキのようだ!」と揶揄されるほど、街全体がフラットで坂道がなく、自転車での通勤通学、ちょっとした移動にもコペンハーゲン生活に自転車は欠かせません。
レンタルバイクやシティバイクも充実しているので、観光だけでなく、普段の生活にもレンタルバイクを使う人もいます。
電車には自転車を乗せるための車両が準備されているので、長距離の移動の際には、電車と自転車を合わせた移動も可能になっています。
環境にも健康にも優しいまちづくりを国や地域が主導しているのは、本当に素晴らしいです。
3. 日本食レストランは複数ある。ブームで日本食には困らない
海外移住となると、ただ旅行に行くだけと違い、日頃の生活がゴロっと変わります。日本で長年住んできた人が海外に住むと、やっぱり日本食が恋しくなる人も多いのではないでしょうか。
デンマークの料理(北欧料理)は、素材を活かしたシンプルなものが多いのですが、最近では、過去にレストラン世界1位を冠したNOMAから派生した新しい食文化が広がり、食材のバラエティも増え、多彩な美味しい料理をどこでも味わえます。
また、元々多文化が入り混じった場所ですので、様々な国籍の食材を入手するのは比較的容易で、各国のレストランもたくさん存在します。
市内には、日本食レストランが複数あり、寿司レストランに至っては、日本食ブームがあったためもあり、街中のいたるところにあります。
もともと物価が高い国なので、それほど外食する機会は多くないかもしれませんが、比較的日本食には困らない街です。
家庭で使う日本食材は、市内にあるアジア食材店で入手することができます。お米、豆腐、うどん、納豆なども売っています。もちろん値段は日本のものの数倍しますが…。
コペンハーゲンは海に面しているわりに、スーパーで取り扱っている魚の種類は限られます。
マグロ、サーモン、エビ、ニシン。大体その辺りでしょうか。
市場に行くとそれなりに種類もありますが、それでも日本で売られているものに比べれば、種類はずっと少ないです。
たまに、お刺身やお寿司など生のお魚を食べたくなる時がありますが、少し品質の高いものを取り扱っているスーパーに行けば、お刺身でも食べられるマグロやサーモンを入手することができます。
4. コペンハーゲンの医療事情
デンマークに移住を考える際、医療の充実具合について気になると思います。
デンマークは高い税負担の代わりに、医療費が基本無料です。
どんなに大きな病気やケガもカバーされているのでその点安心できます。
処方されたお薬も電子的に管理されているので、近くにある薬局に行けば簡単に入手することができます。
ただ、問題がないわけではありません。無料の医療システムを維持するための代償とでもいうのでしょうか。
病院を受診する際には、まずGPと言われるかかりつけ医を受診する必要があります。住む地域で自動的に割り振られるため、自分では病院は選べません。
また、GP受診の際にも予約が必要ですが、症状によってはすぐに受け入れてもらえない場合も多く、風邪程度であれば、受診せずに自宅で静養するよう言われます。
受診しても、その後検査が必要と判断されればさらに高度な医療機関の受診へ紹介されるのですが、コペンハーゲンなど人口密度の高いところは特にそこから数日〜数週間待たされるのが普通です。
緊急を要する場合は別でしょうが、この問題は今も改善の余地があるとして議論されているところです。
プライベートクリニックという選択肢
この無料制度を使わないプライベートクリニックもありますので、高額にはなりますが、日本からの一時的な来訪であれば、海外渡航保険を使って受診する選択肢もあります。
コペンハーゲンに住んでいる人たちは、こういった事情も幼い頃からよく知っているので、みんな健康管理・維持には日頃からとても気を配っています。
常日頃から積極的にジムに通い、朝晩ジョギングをするなど、よく運動をし、よく食べ、よく休みます。
ちょっとでも体調が悪い時には、早めに休みをとって、自分の自己治癒能力で回復することに努めます。
人為的な医療だけに頼らず、人間が本来持つ自然の力で治すことを知っているからこそできる習慣だと思います。会社や学校もその習慣を大事にするので、病気で休むことは日本よりも許容されています。
5. 仕事とプライベートの価値観の違い
日本からデンマークに移住して大きく変わったものの一つが「労働に対する価値観」です。
日本では、「〇〇大学出身で、いま△△という一流企業に勤めています」が、そのひとの社会的価値を図るステータス・指標になることが多いように思いますが、こちらでは「どこ?」よりも「どんな仕事をしているの?」と聞かれることが多いように感じます。
こちらの教育は、その人が将来やりたいことを早い段階から定め、そのなりたい職業になるために高等教育を受けにいきます。
そのため、自分のやりたい職業に就くのが当たり前で、どこで働いているかはあまり価値がありません。
何をしているかを聞くことでそのひとのバックグラウンドもわかるのですね。
仕事をするというのは、自分の得意なことを社会に還元している、という感覚が強いのだと思います。
みんないつも楽しそうに仕事をし、専門外のことには無理をせず、チームを作ってお互いの得意なことを最大限活かします。
上下関係もなく、個々人が意見や技術を出し合うことで、効率の良い仕事を行なっている感じです。
労働時間は週に37時間が通常で、残業という概念がほとんどありません。
これでもまだ短いと思うのに、週休3日制にしよう!という動きもありますから驚きです。
良い仕事を最大限効率的にするためには、しっかり休むことが重要だ!という考えがあるからだと言われています。
また同時に、「プライベートの充実が社会活動の向上につながる」という考えから、仕事以外の時間は、主に家族と過ごす時間や自分の趣味の時間に充てます。
自分の人生を「自分らしく」生きることを大切にするデンマーク人はワークライフバランスをとても大事にします。
仕事も大事だけど、家庭や自分の身体的・精神的安寧や、自分が人生を満喫するためにやりたいことを、仕事以上に大事にします。
金曜日の午後はみんなウキウキして、週末の家族との時間を楽しみにしています。
そうして家族や、友人、自分の好きなことに思い切り時間を使ってリフレッシュすることで、次の週からの仕事に備えて英気を蓄えているのですね。
日本でよく見る「サザエさん」症候群のように、月曜日に憂鬱な顔をして会社に出てくる人は少なく、「週末は楽しんだかい?」と、笑顔で月曜日が始まるのがコペンハーゲンスタイルです。
6. コペンハーゲンってやっぱり寒いの?気候や過ごし方
北欧というと、冬場はかなり寒い!というイメージがあるかもしれません。
少なくともコペンハーゲンに関しては、それほど気温自体が下がることはありません。メキシコからの暖流の影響を受けているので、雪もほとんど降らず、冬場の平均気温は東京とさほど変わらないと思います。
それでも、日本と違うのは、朝の最低気温と日中の最高気温の気温差がほとんどないことと、日常的に風が強く、雨の日も多いため、日中の体感温度は気温よりも寒く感じると思います。
また、風が強いためもあってか、傘を使うとすぐに壊れてしまうので、こちらの人たちは雨が降っても傘をさしません。
外に出るときには撥水コーティングされた冬用ダウンは必須です。
しかし、室内に入ると、住居も職場も公共施設もどこも冬場でも快適に過ごせます。
コペンハーゲン市内の多くの建物は地域暖房につながったセントラルヒーティングにより、室内温度が常に保たれています。
気密性の高い構造が一般的なのもあり、部屋に入るとシャツ一枚で十分過ごせます。
ストーブのように空気を汚すことがなく、じんわりと部屋全体を暖めてくれるためとても快適です。
部屋のどこにいても暖かく、ストーブのように局所的に暑過ぎるということもありません。
空気が乾燥しているのもあるのでしょうが、雨に濡れたダウンも室内で乾かしておけば結構早く乾くので、雨でも傘をささないのは、濡れてもあまり心配がないからなのかも?しれないですね。
季節ごとの楽しみ:春
ここからは一時的な観光訪問では味わえない、季節ごとのコペンハーゲンでの楽しみ方をご紹介します。
コペンハーゲンは年中寒い地域と思われがちですが、ちゃんと季節を感じることができます。
春は日本よりやや遅く、4月の中旬から6月頃になります。
コペンハーゲンの人々は自然が大好きで、森を散策したり、花を愛でる人をそこらで見かけます。
フラワーショップも街の至るところにあり、男女ともにお花を買い、家や職場に飾りその時々の自然や季節を感じます。
コペンハーゲンには桜の名所が数カ所あり、桜が咲く頃には人でいっぱいになります。
日本で馴染みの深い桜を海外生活で見られた時はとても心が安らぎました。
また、長い冬を超え、街の人たちもどんどん活気が出てくるのが目に見えてわかります。
金曜日や週末はお庭や道端でもバーベキューコンロが出てきてパーティが開かれ、美味しそうな香りとともに楽しい笑い声があちらこちらで聞かれます。
季節ごとの楽しみ:夏
6月半ばを過ぎるとコペンハーゲンもすっかり夏です。
とはいっても気温は25度くらいまでですから日本の暑さとは比べ物にならないくらいの快適な夏です。
白夜になることはありませんが、日照時間が長くなり、朝4時頃から明るくなり、夜10時過ぎまで明るいので、レストランやカフェのテラス席で遅くまで楽しむ人たちが増えるなど、気候も街も人も陽気になる季節です。
ただ、ここで、北欧ならではの問題があります。
冬の暖房設備は完璧な北欧ですが、建物にクーラーなるものがほとんどありません。
食品を扱うスーパーや大型ショッピングセンターは別ですが、夏場は室内で過ごすには少し暑過ぎる日もあります。
なので、多くの人たちは自宅のテラスで過ごしたり、ビーチで冬の日照時間の短さを取り戻すように陽にあたって過ごします。
暑くなったら海に飛び込んでクールダウンし、またビーチでのんびり。海やビーチが身近なコペンハーゲンの人たちの夏の日常です。
もうひとつ、夏の間に起こる問題があります。
それは、「みんなバカンス中」だということ。
こちらの人たちは、どの職種でも夏のバケーションはきっちり取ります。
むしろ労働基準で定められているので、無理やりにでも取らないといけないのですが、長期休暇を取って海外に渡ってしまう人も多く、その間コペンハーゲンは機能的に麻痺します。
当然、官公庁の人たちもバカンス中なので、この時期のお役所関係の事務手続きはほとんど機能せず、とても時間がかかります。病院もお休みのところが多いです。
こちらに住んでいる人たちはそのことを承知なので、コペンハーゲンに居ても特にすることがないから、ということで、また海外へ…とコペンハーゲンの夏はかなり閑散とします。
もし、夏に移住を考えていらっしゃる方は、手続きなどに時間がかかるかもしれないのでご注意を。
季節ごとの楽しみ:秋
コペンハーゲンの秋はとても短いですが、農業国らしく食べ物がとても美味しい時期です。
特に野菜、果物は日本のものと比べても、ずっとお手頃な価格で有機栽培の品物が手に入ります。
過ごしやすい気温が続くのと、これから来る長い冬に備えてか、外でバーベキューパーティを楽しむ風景をよく目にします。
また、街中でも大きな公園や森がある自然豊かなコペンハーゲンでは紅葉を味わうこともできます。
石畳や石造りの建物に映える紅葉も、日本のものとはまた違う趣で、とても綺麗です。
ハロウィンなどのイベントもありますが、こちらではハロウィンはさほど盛大に盛り上がるイベントでもなく、季節の移り変わりを静かに楽しむ、そんな感じがします。
季節ごとの楽しみ:冬
11月頃になると、日中の明るい時間もどんどん短くなり、長い冬に入ります。
日が短くなるにつれて、やはり気分も落ち込みがちなのですが、11月半ば過ぎると、クリスマスの気配を感じられます。
クリスマスはこちらの人たちにとって最大のイベント。通りにはクリスマス飾りが出てきて、街には装飾品の専門店やクリスマスマーケットが出てきます。
歴史のある遊園地チボリ公園や、現存する世界最古の遊園地バッケンもクリスマス仕様でクリスマスまでの気分を高めてくれます。
そして、クリスマスイブ。街はそれまでの喧騒とは打って変わって、急に静けさに包まれます。
こちらのクリスマスは、美味しいご馳走とクリスマスツリーを囲んで我が家で家族団欒を楽しむもの。たまに観光客が北欧のクリスマスを体験、とこの時期にいらっしゃいますが、お店はほとんど空いていませんし、クリスマスマーケットも当然祭りの後。
ぜひ北欧にクリスマスを感じにいらっしゃりたい方はクリスマスより早めにお越しください。
24、25、26日とクリスマスのお祝いが済むと、そこから一気に新年に向けての準備が始まります!
大晦日と新年は、デンマークの人たちにとってクリスマスと同じくらいのビッグイベント!
クリスマスと違って大晦日はみんな外に出て盛大に祝います。
毎年大晦日の夕方6時になると、まず、みんなテレビの前に鎮座します。
なぜなら6時から女王陛下の『新年のお言葉』がTV放映されるからです。女王は、国や国民が直面している事柄に触れるスピーチを厳かに行います。
デンマーク人はそれを見て一年を静かに振り返り、家族や友人と新たな年への抱負を語らいます。
そして番組が終わると、パーティが開かれ、新年を待ちきれない人は外に出て花火を上げ始めます。
まだその頃にはパラパラだった花火の音が、ちょうど12時を迎えたその瞬間、教会の鐘が一斉に鳴り響くとともに、住宅地、商店街、所構わず花火が打ち上げられます。
普段はシャイなデンマーク人も、すれ違う人々にGodt Nytår!(新年おめでとう!)と声を掛け合い、新年を祝うのです。
この花火は2時頃まで続き、盛大な盛り上がりを見せます。
日本と違って、お正月はこの1月1日のみ、というところが一般的。2日からは仕事も通常営業になります。
1月、2月はデンマーク人にとってもただ暗くて、寒い、ちょっと厳しい日が続くのですが、出来るだけ家を快適にして、家でゆっくり過ごすのがこちらの冬の越し方のようです。
コペンハーゲンに移り住んでから感じたことまとめ
海外移住や、海外留学などで気づくことができる文化の違いや気候の違いによる生活習慣の違いは、慣れるのに大変なところはありますが、新しい価値観に気づかせてくれる、いいきっかけになると思います。
コペンハーゲンは自国で育んだ独特な文化を尊重しつつ、人間らしく生きるためのスローライフを実現し、かつ、他文化を受け入れる柔軟性を持っており、初めての海外生活の場にはとてもいい環境なのではないかと思います。
これからコペンハーゲンでの生活を考えていらっしゃる方の参考に少しでもなれば幸いです。