子供を連れて海外生活をスタートさせて、現地の学校に通わせはじめると、新しい生活に慣れさせることに必死になりがちです。
一方で
- 日本語を忘れてほしくない
- できれば年齢に応じた日本語を習得してほしい
と考える親も多いのではないでしょうか。
子供の年齢にもよりますが、低学年であればあるほど、現地の学校に通いはじめるとあっという間に現地の言葉を多く話すようになります。
ずっと海外生活を続けるので、日本語はできなくても構わないという考え方もあるでしょう。
しかし、日本に里帰りした時、祖父母と会話ができないというのは何とも悲しいことです。
読み書きができなくても、簡単な日常会話ができるくらいの日本語をキープしておけば良かったと後に思うことがあるかもしれません。
また、海外の大学に進学したとしても、日本と提携している大学へ交換留学生として、1年間日本で学ぶ機会があるかもしれません。
やはり日本語が少しでもできた方が、将来子供の可能性は広がるのではないでしょうか。
そこで、経験を交えながら、海外で日本語を学習する方法をいくつかご紹介いたします。
お子さんにあった学習方法を考える参考になれば幸いです。
日本語を学ぶ4つの方法
1.日本人学校(小中学校):数年で日本に戻る場合はおすすめ
もし、海外生活を始めた家の近くに日本人学校があり、数年で日本に帰国することが決まっている場合は、日本人学校は多くのメリットがあります。
日本人学校は、世界49カ国・1地域に94校(令和4年4月15日現在)あり、日本から校長や先生が派遣され、日本の小中学校と同じ教科書を使い、海外にいながら日本の学校と同じ教育が受けられる学校です。
多くは現地の日本人会や日系企業や父母会などが母体となって運営されています。
日本の小中学校と違い、授業料は有料となります。
ただし、日本の教科書は無料配布されます。
また、学校の規模に応じて国からの補助金がでています。
全日制で日本の学校とほぼ同じカリキュラムで授業が行われます。
よって、現地の学校に通うことはありません。
日本語で授業を受け、日本語で友達と遊ぶため、学校での1日を日本語で過ごすことができます。
現地校に通うほとんどの子供たちが経験する、言葉が分からないというストレスを感じることはありません。
また、日本に帰国した際、学校の授業に遅れることなく、日本の学校に戻ることができることが利点です。
少人数のクラスが多く、帰国時の学年に合わせて、受験対策を行っている学校もあり、一人ひとりに対して細やかな指導が期待できます。
一方、海外生活していながら、現地の言語を習得する機会は少なくなります。
よって、日本人学校に通っていた場合は、帰国後、中学・高校の受験の際、帰国子女枠の受験対象外としている学校もあります。
2.補習授業校(小中学校):日本語を話す友達ができる
補習授業校は世界54カ国・1地域に230校(令和4年4月15日現在)あります。
父母が中心となって教えている小さい補習授業校から、地元の日本人会や日系企業が母体となって運営されている比較的大きな補習授業校までその規模は様々です。
日本人学校と同じく国からの補助金と授業料で運営されています。
補習授業校は、土曜日または日曜日、もしくは平日の夕方に開催されるので、子供たちは、月曜日から金曜日までの日中は現地校に通い、現地校がない土曜日・日曜日や放課後に補習授業校に通って学びます。
補習授業校で開催されている授業科目は、それぞれの補習校によって異なります。
国語だけの補習授業校もあれば、国語、算数、理科、社会まで行う補習授業校もあります。
また、運動会やお餅つき大会など、日本の学校で行う季節の行事などを行う補習授業校もあり、現地校では体験できない日本の学校を体験することができます。
補習授業校は現地で長く生活している子供たちが比較的多く通っています。
両親のどちらかが日本人というハーフの子が多く、少数ですが全く日本人の血は入っていないけれど、日本のアニメが好きで日本語を学ぶために通う子もいます。
授業は週1〜2回なので、重要なのは宿題をきちんとこなすことです。
また、漢字テストのために、毎週漢字の練習をして、テスト範囲の漢字をきちんと覚えることが大事です。
諦めずに通い続けることで、十分に小学校レベルの読み書きはできるようになります。
補習授業校は、日本語を話す友達に出会える場でもあります。
同じ言語を話す友達は何より学ぶことの励みになります。
小学校も高学年になると土日に習い事があったり、現地校の友達との約束や誕生会などの用事が増えて、補習授業校に行くことを断念してしまう子も少なくありません。
いろいろな用事をなんとかやりくりして、中学3年生まで補習授業校に通い続けることができれば、流ちょうに日常会話を話し、簡単な文章を理解して読み書きできるレベルまで達することができるでしょう。
3.日本語学校
大都市には、大人から子供までを対象にした日本語学校があります。
学校が独自に作成したオリジナルの日本語テキストを使って、授業が行われます。
入校時に、日本語のレベルテストがあります。
テスト結果によりクラス分けがされ、レベル毎のクラスになるので、小学校低学年と中学生が一緒のクラスになることもあります。
授業では、日本文化の紹介が多くテキストの内容に組み込まれ、日本語だけではなく、日本の行事、例えば、ひなまつりや節分など、その意味や祝い方なども学べるようになっています。
また、海外で生活しているとつい忘れてしまう日本の童謡など、なつかしい歌もまた学習内容に組み込まれていて、難しい日本語をあきらめずに、楽しく学べる工夫がされています。
4.通信教育
海外にいながら、日本の中学・高校・大学に進学することを目指す子供たちは、日本の受験に沿った内容の授業を通信教育を利用して学ぶことができます。
海外、どこにいても、インターネット環境とパソコンさえあれば、配信の学習映像やメールでの質問など、日本と同じ内容の授業を受けることが可能です。
ただ、毎日現地校の宿題や課題があるので、その学習をやりつつ、同時に日本の授業を通信教育で学び続けることは、時間的にとても大変なことです。
小さい頃から、現地校の宿題と合わせて、通信教育の課題をやる習慣をつけてしまうことができれば、長く続けることが可能でしょう。
また、中学生や高校生となり、自分の意思で日本の学校を目指す場合は、目標に向かって通信教育による学習に取り組むことができるでしょう。
いずれにしても、子供の年齢に合わせて、それぞれの目標にそって、必要な方法や取り組み方を見つけることができれば、通信教育は大変便利です。
我が家の日本語教育
我が家の子供たちは、3歳と5歳で海外生活がスタートしました。
現地校に通わせていたので、子供たちの言語の中心が英語になっていくのは早かった様に感じます。
子供たちの言語の変化の経緯と共に、日本語教育のためにどのようにしてきたかをご参考までにお伝えします。
1.海外生活1年目
1年目は、日本から日本語の本や子供番組のビデオを送ってもらい、それが届くのを楽しみにしていました。
二人とも、言語は日本語でした。
英語はほとんど理解できないまま、現地の幼稚園や学校に通うようになりました。
1か月もすると英語の問いかけにYES or NOの意思表示ができるようになりました。
そのうち、友達と遊んでいるうちに、耳で聞いた言葉をそのまま真似して言うようになり、少しずつ英語を話すようになりました。
10か月が経った頃、下の子は幼稚園から家に戻ると、30分くらいは英語で幼稚園であったことを話すようになりました。
その話を聞きながら、私が日本語で答えるので、ぽかんとした顔で考える沈黙の5分間が流れて、その空白の時間ののち、言語が日本語に変わり、日本語で話しはじめるということが半年くらい続きました。
上の子は、日本で日本語教育に力を入れた幼稚園に通っていたので、漢字や四字熟語、詩の朗読など、かなりの日本語を暗記していたので、家に戻るとすぐに日本語で話していました。
軸となる言語として、日本語がかなりしっかりあったのだと思います。
下の子のように、英語から日本語にスイッチする沈黙の時間はおきませんでした。
日本語の学習は、日本から年齢に応じた通信教育を取り寄せて、自宅で教えていました。
読み聞かせの本は、日本語と英語が両方書かれている教材を使っていました。
2.海外生活2年目
2年目になると、子供たちはテレビで英語の子供番組を見るようになりました。
学校の友達の影響が大きく、学校で話題になる子供番組を見ていました。
上の子はG1(1年生)になり、現地校の宿題がでるようになりました。
毎日読まなければならない課題の本があり、英語の単語数が増えていきました。
日本語の学習は、土曜日に補習授業校が開催されていることを知り、車で30分ほどのところだったので通うことにしました。
補習授業校では、日本の小学校で使われている教科書を使って、国語と算数の授業を受けることができました。
毎週1回ですが、しっかりと宿題もあり、漢字テストもあったので、その勉強に取り組むことができました。
下の子はまだ幼稚園だったので補習授業校には入れず、土曜日は日本語学校の幼稚園の部に入園し、日本語のひらがなやカタカナ、歌などを習っていました。
1年目に行っていた通信教育は続けることが出来ず、やめてしまいました。
現地校の宿題と補習授業校と日本語学校の宿題をやるだけで、一杯一杯でした。
3.海外生活3年目
3年目には、二人とも日本語の本は読まなくなりました。
本は英語の本、テレビも英語の番組しか見なくなりました。
兄弟の会話が英語になることが多くなりました。
学校や近隣に日本語を話す友達がいなかったので、家の中での言語は徹底して日本語だけにして、日本語をキープすることを心がけていました。
子供たちの会話の途中途中に英語が混じると、それを日本語にして言い換えて話し、意識して日本語の単語を定着させる努力をしてきました。
補習授業校は、唯一日本語を話す友達と会える場所でした。
1学年1クラス10名程度で、子供たちはお互いに日本語と英語が混じる会話をしていましたが、校内は英語禁止というルールのもと、日本語で授業が受けられたことは、とてもありがたかったです。
先生方はどの学年も少人数なので、一人一人に丁寧にアドバイス頂き、熱心に教えて頂きました。
宿題の量は適量で、無理せず続けることができました。
現地校の宿題も毎日あるので、あまり補習授業校の宿題が多いと続けられなかったことでしょう。
今、子供たちが日本語を普通に話し、漢字を含め、読み、書きが人並みにできるのは、補習授業校で授業を受け続けてきたおかげです。
お世話になった先生方には、心から感謝しています。
また、補習授業校では授業だけではなく、親たちがみんなで準備をして、手作りの運動会や餅つき大会などの行事を開催し、子供たちは現地校では経験できない日本的な行事を体験することができました。
子供たちは補習授業校を卒業し、当時同じクラスだった友達は、引っ越しや進学で世界中様々なところで生活をしていますが、子供たちは当時の補習授業校の友達とSNSでつながっていて、何かあると今でも連絡をとりあっています。
4.海外生活4年目以降
我が家の場合は、3年目を境に子供たちの軸となる言語が日本語から英語に変わったのではないかと感じています。
海外生活が始まる年齢にもよりますが、年齢が低いほど軸となる言語が変わるタイミングが早いのではないでしょうか。
この軸となる言語が変わる時に、あきらめずに親が日本語を話し続けることが、日本語をキープするためには重要だと考えます。
1つの言語で生活する方が楽です。
子供たちの言語が英語に変わってきたタイミングで、親が一緒に英語を話してしまったら、あっという間に英語だけになってしまいます。その方が楽だからです。
海外では、日常の生活で日本語の文字を目にする機会もなく、音として聞くこともないので、日本語をキープしたいのであれば、無理にでも日本語に接する時間を作らなければなりません。
日本語は思った以上に難しいです。
ひらがな、カタカナ、漢字があり、助詞や助動詞、尊敬語や謙譲語、四字熟語にことわざなど、覚えることがたくさんあって、途中でいやになってしまうこともあるでしょう。
お子さんにあった方法で、学ぶことが嫌にならないように、できるだけ長く続けることが日本語をキープする方法です。
我が家の場合は、週1回の補習授業校に通うことで、なんとか日本語の勉強を続けることができました。
もし、通える範囲で補習授業校の授業が開催されていれば、一度検討してみるのも良いかもしれません。
海外で活躍する場として:日本語教師
これから、海外で活躍してみたいと思っている方は、日本語教師という職業もその活躍の場のひとつとして考えてみてください。
海外で生活して感じるのは、日本を知らない人がまだまだ世界には多くいるということです。
一方で、日本のアニメは世界中で大変人気があり、アニメを入口に日本や日本語に興味を持つ外国人が思った以上に多くいるということに驚くことがあります。
また、補習授業校や日本語学校で学ぶ子供たち以外にも、現地の高校や大学の第二外国語として日本語を選択し学んでいる子供たちがいます。
我が子の友人で日本語を学んでいる子に「これが銀行です。」「これは銀行です。」の違いってなんですか?と聞かれて、なんと説明したらいいのか考えてしまいました。
前後の文脈がないと説明できないと思いながら、あらためて日本語を教えることは難しいと感じます。
日本語教師がいなくて、希望者がいても日本語の授業ができない高校や大学もあります。
その面でも海外で日本語を教える日本語教師の方がもっと増えると、もっともっと日本の文化の魅力が、世界中に伝わるチャンスが広がるのではないかと感じます。
継続は力なり
海外で日本語を学ぶには、地域に補習授業校や日本語学校があるかどうか、ご自宅の場所によって条件が異なるので、それぞれの環境であった方法を見つけていくしかないのかもしれません。
今は、YouTubeの動画や無料アプリで簡単に日本語を学ぶことができます。
お金をかけずに、時間も自由に、いつでも学びたい時に学びたいことを学べる時代です。
ただ、どの様な形にしても、日本語を習得するためには、継続的な学習が必要となります。
そして、子供たちの努力が第一であることは否めません。
親もまた、子供たちに寄り添い、宿題やテスト勉強をサポートし、あきらめずに継続することは本当に大変なことです。
私も、もういいかなと思うことが何度もありました。
実体験から、子供が嫌がらない限り、親がもういいやと子供より先にあきらめてしまわないことが大切だと実感しています。
将来、いつかこの努力が子供にとって何かの役に立つ日が来ることを信じ、無理せずに楽しく続けられる方法を試行錯誤しながら見つけていってください。