「海外で子どもに関わる仕事をしたい」
と一度でも思ったことがある方へ。
今回は、19年にわたりカナダ・バンクーバーで保育士として暮らしてきたリサさんにインタビュー。
学生ビザからはじまり、偶然が重なって永住権取得へと至ったリアルなストーリーには、海外移住に挑戦する勇気と知恵が詰まっています。
日本とカナダの保育の違い、移民制度のリアル、そしてカナダで暮らすための実践的な視点まで。
リサさんの言葉の一つひとつが、「海外で働くこと」への視野を広げてくれるはずです。
Q. 自己紹介
カナダのバンクーバー在住のリサと申します。
2006年9月にカナダに渡ってきたので、今年の5月で19年になります。
最初は学生ビザで1年間のつもりで来たのですが、そこからワークビザが取れて、その流れで永住権も取得でき、今に至っています。
Q. もともとは日本でも保育士をされていたのですか?
最初は地元の保育園で働いていました。
その後、アメリカ・ポートランドにある家庭にオペアという制度で1年間住み込みのベビーシッターとして滞在しました。
帰国後は都内のインターナショナル幼稚園で働いてから、カナダに行くことになりました。
Q. 海外に対する抵抗はなかったのですか?
実は高校までは英語が大嫌いでした。
中学に入ってもローマ字も読めないくらいで、完全に丸暗記で点数を取るタイプでした。
英語なんて絶対にやりたくないと思っていたんです。でも、高3の時に英語の先生のつてでアメリカ・ケンタッキー州に2週間ホームステイする機会がありました。
まったく英語が話せず、単語20個ぐらいで過ごすような状態でしたが、自信をつけるつもりが逆に打ちのめされて帰ってきました。
ただ、「このままでは嫌だ」と思ったのも事実で、そこから英語の勉強を始めました。
Q. その後、再びアメリカに?
はい。留学雑誌で、アメリカで住み込みのベビーシッターとして1年間滞在できるプログラムを見つけ、ハワイで参加しました。
行く前に最低限の英語を覚えて行きましたが、現地のホストマザーがすごく熱心に聞いてくれて、コミュニケーションもなんとか取れました。
ホストファザーが日本人だったこともあり、困ったときは日本語も交えながら過ごしました。
Q. その経験が、カナダへの移住につながっていくのですか?
そうですね。
インターの幼稚園で3年弱働いていたのですが、園長先生がアメリカ人、副園長が日本人でした。
面接のときに「日本人というだけで英語教育ではマイナススタートだよ」と言われたのを覚えています。
でも後から入ってきた金髪でいかにも外国人という見た目の先生が担任を任されていたりして、英語が上手くないのに…と違和感を覚えました。
そこで「他国の保育士資格を持っていれば違うのでは?」と思い、英語圏の中からカナダを選びました。
選んだ理由は、アクセントが強すぎない英語を話す人が多かったからです。
ポートランドにいたときにバンクーバーにも少し行ったことがあり、土地勘があったのも大きかったです。
Q. カナダではどのようにして永住権を取得したのですか?
最初は1年間の保育士の専門学校に通いました。
ビザのことをあまり調べずに行ったのですが、偶然にもその学校は卒業後に就労ビザ(Post-Graduate Work Permit)を申請できる仕組みがありました。
実習先の保育園で「ビザを出してでも来てほしい」と言ってもらえて、まず1年働くことにしました。
その後、同じタイミングで入った韓国人の同僚が永住権申請を進めていたこともあって、私もやってみるかと。
2年働いていたことでカナディアン・エクスペリエンス・クラスという移民枠で申請資格を得られました。
そこから無事に永住権を取得できました。
移民制度はかなり変わりやすい
2010年のバンクーバー五輪前後は、ビザがすごく取りやすかった時期がありました。
一方で今は申請が厳しくなってきていて、同僚の中にもまだ永住権を取れていない人もいます。
タイミングがものを言う世界だと思います。
Q. バンクーバーの生活環境
とにかく家賃が高いです。
家を買うには宝くじを当てても足りないくらいです。
シェアハウスで3人で1部屋を使うことも珍しくありません。
住む場所を地方に移せば家賃は下がりますが、今度は仕事がありません。
生活水準はあまり変わらない印象です。
Q. カナダの保育園での保育の特徴について
ここ15年ほどで、カナダの保育はかなり変わってきました。
私が専門学校に通っていた頃は、まだ子どもたちにワークシートをやらせたり、アカデミックな要素が混じるような保育も普通でした。
でも今は、「レッジョ・エミリア」や「モンテッソーリ」といった保育法にインスパイアされた
「イマージョン・カリキュラム」
という方法が主流になってきています。
これは、子どもの興味や関心を中心に据えて、先生がそれに沿って学びを広げていくという考え方です。
たとえば、ある子が虫に興味を持っていたら、その子の興味をどうやって保育につなげていくかを考えていきます。
そして先生は、子どもがどんなふうに学んでいるかを観察し、記録する「ドキュメンテーション」を行います。
これは、ただ遊んでいるのではなく、きちんと学習しているんだという証明にもなるのです。
Q. 保育方法の自由さと、子どもたちの規律のバランスについて
カナダの保育は自由を大切にしている反面、そこが難しい点でもあります。
たとえば、絵の具で絵を描くときに、絵の具を別のコーナーに持って行ってしまう子がいたとして、それを止めるかどうかは先生によって意見が分かれます。
ある先生は「自由な発想だから止めるべきではない」と言い、別の先生は「ルールが崩れてしまう」と言う。
現場ではそうした線引きが非常に難しいです。
また、自由な保育の中では、子どもたちが一緒に何かをやる経験が少なくなることもあります。
日本ではみんなで折り紙を折ったり、工作をしたりしますが、カナダではそれが「創造性を妨げる」とされることもあります。
でも、私は思うんです。
自由に表現するにも、基礎が必要なんじゃないかと。
たとえば、ハサミの使い方ひとつ取っても、練習しなければ大人になってもできない人もいます。
実際に、カナダ人の同僚でハサミを真っ直ぐに切れない人もいたんです。
それは子どもの頃に練習していないからだと思います。
だから、自由と基礎教育のバランスって、本当に大事だなと日々感じています。
Q. カナダの保育環境で働く上で、同僚との価値観の違いも影響しますか?
とてもあります。
私は今の保育園に10年ほど勤めていますが、先生が変わるたびに、「この人はどういうスタンスで保育をする人なのか」と気になります。
価値観が近ければスムーズですが、真逆の考え方を持っている人が入ってくると、同じ子どもに対して違うことを言うわけにはいかないので、調整がとても大変になります。
わがままに育ってしまうんじゃないか?という声もよく聞きますが、それは「自由を履き違えた結果」だと思います。
自由の中にもルールは必要で、「このエリアでは絵の具を使っていいけれど、別のエリアでは使っちゃダメ」とか、そういったルールを子どもに伝えていくのが大切です。
続きは後編記事へ
リサさんのリアルな体験を通して、海外で保育士として生きることの可能性と現実の両方が浮かび上がってきました。
彼女の言葉は、海外移住を考えるすべての人にとって、大きなヒントになるはずです。
本インタビューの続きは、後編記事でお届けします。