バイタリティあふれる方は、オーストリアで得意分野を活かし、企業などに捉われず自立した形で収入を得て暮らしたいと考えているかもしれません。
ここでは個人事業主としてオーストリアで働くための在留許可(=ビザ)や必要手続き、そして起業への実績づくりなどについてご紹介します。
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定住許可(Niederlassungsbewilligung)と滞在/在留許可(Aufenthaltungsbebewilligung)
いかなる場合の滞在でも外国人である日本人がオーストリアで暮らすにあたって必要なのが、査証、通称ビザです。(正確にはビザは入国許可証書)
現状、まず日本から渡航してきてすぐに自営業やフリーランスで働くためのビザを取るのは非常に難しいとされています。
これはフリーランスで働く筆者の先輩方や、移民のためのビザ問題を主に請け負っている弁護士の方からも聞きましたので、実情として踏まえる必要があります。
しかし順序を追ってきちんと計画すれば将来的に自営業やフリーランスで働くことは決して不可能ではありません。
オーストリアで自営業もしくはフリーランスで収入を得て暮らす場合は、将来的に永住することを前提とした制度があてはまります。
そのため、労働が可能な定住許可(Niederlassungsbewilligung)となるビザを取得することになります。
この定住許可はいくつかの種類がありますが、最終的には永住権(無期限定住許可)もしくは「オーストリアの市民権=国籍をオーストリアに変えること」ができます。
ちなみに滞在/在留許可(Aufenthaltsbewilligung)は将来的に帰国することを前提としたビザになり、例えば駐在員や学生として滞在する場合などに該当します。(最長3年)
いずれのビザもそれぞれの要件規定をクリアして手続きを行えば延長、もしくは他の種類のビザ取得が可能です。
ビザ/滞在/定住許可証の申請は在日本オーストリア大使館で申請することもできますが、現地(オーストリアに渡航されてから)で申請する人が多数といわれています。
申請先、問い合わせは地域によって異なりますので、居住地区に該当する申請先をご確認ください。
ウィーン市内にお住いの方はウィーン市役所35課(Magistratsabsteilung35)、ウィーン以外は各市町村の役場(Bezirkshauptmannschaft=BHSかMagistrat)になります。
最も可能性があるのが赤白赤カード(Rot-Weiß-Rot Karte)
どのような形で起業、自営業もしくはフリーランスとして就労するのかにより一概にはいえませんが、最初に取得できるビザは赤白赤カードという種類のビザになるでしょう。
赤白赤カードというのは、特に資格のある人、こちらで不足している仕事の熟練者(飲食店等も含む)、次のような主要労働者(キーワーカー)が対象です。
- 特別高技術者
- 人材不足専門技術者
- オーストリアの大学修了者
- その他のキーパーソン
- 自営業者
この赤白赤カードの申請は、各項目でポイント制の審査が行われます。
年齢も35歳以下だとポイントがより高く加算されるようです。
下記にその申請に必要な書類を記しますが、実際に申請される際に必ず該当機関担当者に問い合わせてご確認ください。
必要書類は地域担当機関や該当する要件によって違います。
参照サイト: oesterreich.gv.at / rot-weiß-rot-karte
https://www.oesterreich.gv.at/themen/leben_in_oesterreich/aufenthalt/3/2/2/Seite.120227.html
居住許可証の要件と必要書類
1.要件
まずクリアしなければいけないのが居住許可証に必要な以下の要件です。
- 充分な生計として、月額/単身者:966.65ユーロ、夫婦:1472.00ユーロ、各子供につき:149.15ユーロの追加を確保保証
- 健康保険加入(海外旅行保険は不可)
- 宿泊施設としての賃貸契約掲示
ドイツ語能力の証明 A1(初級)ドイツ語コースに通えばよいことになっていますが、実際に申請時に「検定試験を受けてください」と言われた人がいました。
そのことから下記に記した団体のドイツ語検定A1を受けることをお勧めします。
参照サイト:
Österreichisches Sprachdiplom Deutsch(ösd)
Goethe-Institut e.V
https://www.goethe.de/de/m/index.html
Telc GmbH
Österreichischer Integrationsfonds(ÖIF)
https://www.integrationsfonds.at/
2.必要書類
- 有効な渡航文書(パスポート)
- 出生証明書
- 半年以内の写真(45×35mm)
- 賃貸契約、家やアパートなどの所有権の証明
- 健康保険の加入
- 充分な生計の証明(給与明細書、サービス契約、年金、投資資本又は充分な価値のある自己資産の証明など)
- (あれば)結婚証明書、パートナーシップ証明書、養子縁組証明書、家族関係の証明書
※ドイツ語で書かれていない文書はドイツ語に翻訳して提出しましょう。
※戸籍などはアポスティーユを要します。
参照サイト:
オーストリア官庁総合案内/HELP.gv.at
https://www.oesterreich.gv.at/themen/leben_in_oesterreich/aufenthalt/3/Seite.120217.html
オーストリア大使館
https://www.bmeia.gv.at/ja/oeb-tokio/reisen-nach-oesterreich/aufenthaltsbestimmungen/
在オーストリア日本大使館
https://www.at.emb-japan.go.jp/files/000231475.pdf
起業/自営業のキーワーカーへの特別要件
次に必要なのが起業/自営業のキーワーカーの特別要件を満たすことです。
以下が起業/自営業のキーワーカーへの特別要件になっています。
オーストリア労働市場サービス(AMS=Arbeitsmarktservice)での相談と審査が必要となります。
- 関連する投資資本の転移や有益な雇用、経済的利益、経済効果審査
- 新しい仕事を生み出すか、既存の仕事を保護するか
- ノウハウについてや新技術の導入について
- その会社は地域全体にとって重要か
参照サイト: AMS/自営業者へのプログラム
自営業に向けて相談や必要な資格取得補助を斡旋してくれます。
起業/自営業者の必要書類
さらに、起業/自営業者に対して特に以下の書類が求められます。
- 投資資金の確保と送金証明、事務所もしくや事業場所、店舗の契約証明
- 事業もしくは営業計画、活動の説明と目的掲示
- AMSの審査書類
赤白赤カードを取得する流れ
原則、滞在許可を得るためには、在日本オーストリア大使館か、オーストリア内の移民局各担当機関(地域により違います)で申請します。
日本人は査証なしでオーストリア入国滞在が6ヶ月間可能ですので、その間に各申請手続きをした方が、書類不備をはじめ専門機関への相談が必要になるなどしても対応しやすいでしょう。
現地申請をするのならば、必ず日本からしか用意できない書類を確認して漏れなく準備しましょう。
公式サイトには申請してからビザ発給まで2ヶ月と記されていますが、これはすべての書類が完全に揃っている場合で、なおかつ最短でということのようです。
起業、自営業、フリーランスの難しさ
先にご紹介した方法で、定住ビザならびに自営業/起業、フリーランスとして働いて収入を得るというのは法的に可能です。
しかし、実際にはかなり厳しい審査と要件をクリアしなければならず、相当な準備と資金が必要になります。
例えば以前にオーストリアで就労した実績や学問修士を得ていたり、有力な資格がありそれが仕事に不可欠と証明できるのなら、その道はそう険しくはないでしょう。
ですがそういった実績や資格・経験がないのであれば、その実績から築く必要があります。
以下ここからは、オーストリアで将来的に起業/自営業、フリーランスで働くための実績作りをご紹介します。
最初は学生ビザで
オーストリアという国柄、音楽留学でオーストリアに渡航される方はたくさんいます。
大学での就学を終え、劇場やオーケストラに所属しその後フリーになるという道です。
または、ツアーガイドの仕事もこういった道が考えられます。
オーストリアでガイドをするためには専門の講習を受け、さらにオーストリア政府認定国家資格が必要です。
国家資格(ライセンス)を持たずにガイドの仕事をすると罰せられ、罰金と強制帰国となりますので注意してください。
そのほか、「専門分野(例えばいわゆる職人。家具職人やパン職人、庭職人など)で専門教育を受けてオーストリア公式資格を取る」というのも方法の一つです。
それぞれに専門の学校があり、実習を兼ねて平均2〜4年学びます。
ちなみにオーストリアで就学し、資格を取るのならば当然ながらオーストリア公用語のドイツ語も必須となります。
一般大学もしくは専門学校受験時にはドイツ語検定B2は必須、できればC1まで習得しておいた方が安心です。
学生ビザから就労ビザへ
就学後、修士または資格を得た後に就労目的のビザを取るために、就労先を決める必要があります。
そもそもオーストリアに限らず、学業を終えすぐに独り立ちするというのは基本的に無謀なことで、それ相応の経験と実績を積む必要があります。
ここで取れるビザは赤白赤カードか Niederlassungsbewilligung-Küntlerという芸術家のためのビザが主になるでしょう。
これらのビザは労働市場に制限があります。
それでも赤白赤カードを取得すると、自営業やフリーランスに限らず、オーストリアでの定住及び就労許可全般に値します。
取得の際はそれぞれの条件によって審査されますが、その審査内容は主に「確実に生計を立てられるか・実直に就労できるか」を判断されるものです。
そのため、やはりビザ申請のために雇用先から就労証明や給与明細の掲示できた方が断然その審査は有利になり、審査ポイントの加点になります。
就労先を決めた上でのオーストリア渡航ビザ取得
日本や他国ですでに就労実績や相応な資格を得ているならば、オーストリア内の企業や団体、営業所などで雇用契約をしてからビザ取得という方法があります。
この方法の利点は、雇用先が貴方の身元を保証してくれるような形になるので、ビザ申請の際、審査の点でもかなり有利になります。
有利なだけではなく、居住場所や他生活するにあたっての手続きなどアドバイスもしくは助けが得られる可能性が高いということです。
これが取れればいよいよ実現・赤白赤カードプラス(Rot-Weiß-Rot Karte plus)
赤白赤カード取得2年が経つと赤白赤カードプラス(Rot-Weiß-Rot Karte plus) というビザの申請権利が得られます。
このビザを取得できれば労働市場で制限なく就労することができます。
または赤白赤カード取得2年後に自営業期限付定住許可=Niederlassungsbewilligung (befristete Niederlassung ,selbstsätige Erwerstätigkeit)というビザ申請も可能です。
以下に記すのが、一般的に赤白赤カード取得後に多くの人がビザ延長時に変更取得申請する、赤白赤カードプラスの申請対象者と必要な要件・書類です。
〇対象者
- 赤白赤カード(2年以上)から書き換え
- 赤白赤カード所有者の家族
- EUブルーカード(EU指令に基づくキーパーソン/高額給与、高学歴条件)から書き換え
- EUブルーカード所有者の家族
〇要件・書類
赤白赤カード申請時とほぼ同じですが、数点つけたしがあります。
- 過去24ヶ月以内に雇用経歴があることとその証明書。
- ドイツ語検定A2習得
- 個々のケースで追加要項目、書類が必要になる場合あり
ドイツ語検定A2習得が必要なのは、定住許可が発給されて2年以内にドイツ語能力A2に向上させる義務があるためです。
ちなみに5年在留後に永住権=無期限定住権を取得する場合はB1までが必須となります。
参照: HELP.gv.at/ rot-weiß-rot-karte plus
https://www.oesterreich.gv.at/themen/leben_in_oesterreich/aufenthalt/3/2/Seite.120307.html
自営業者としての義務
実際に滞在/定住許可が取得でき、いよいよ事業を始める段階でAMSにて法的届けが必要となり、営業許可を得なければいけません。
この届けが受理されると同時に自動的にオーストリアの社会保険加入(SVS)、自営業者としての登録がされます。
オーストリアでも所得税納税の義務があり、四半期年ごとにその申告をすることが必要です。
ここで注意すべきは、前年の収入に対しての税率が課せられること。
例えば前年の収入が非常に良くても今年度の業績がふるわず、収入額が大分減ってしまっても税額は前年の収入で算出されるため、支払いに苦労することもあり得ます。
(初年度は前年払金が存在しないので翌年に追加納付)
そういったことも踏まえ、充分に計画し、準備する必要があります。
以下ではその税率を記しました。
収入・利益 | 所得税率 |
---|---|
年収11,000ユーロ以下 | 所得税納税はありません。 |
11,001〜18,000ユーロの利益 | 25% |
18,001〜31,000ユーロの利益 | 35% |
31,001〜60,000ユーロの利益 | 42% |
60,001〜90,000ユーロの利益 | 48% |
90,000〜ユーロの利益 | 50% |
100万〜ユーロの利益 | 55%(2021年から50%) |
社会保障、保険料についても把握しておくと良いでしょう(2020年現在の月額)
- 8%の健康保険(最低31.32ユーロ〜最高426.02ユーロ)
- 5%の年金保険(85.22ユーロ〜1,159.603ユーロ)
- 09ユーロ(固定)の傷害保険
- 53%の自営業年金(7.05ユーロ〜95.85ユーロ)
※利益から全体で平均28%
さいごに
いかがでしたでしょうか。
オーストリアで起業するには、段階的に相応の実績を積み、その時々に見合った手続きを進める必要があります。
準備や手続きにおいて多少でも参考になればうれしいです。
ビザなどの情報は今後政府の方針などで変更されることもありますので、詳細は必ず公式サイト、該当する機関役所へ直接確認してください。