将来的にオーストラリアに移住するなら、子どもが小さいときのほうがいいのでしょうか?
親の選択や決定は、子どものその後にも長く影響するものです。
これからオーストラリア移住を考えていらっしゃる皆さんに、筆者の10年ほどの体験も交えたパースの学校情報をお伝えします。
移民のための英語教育
オーストラリアでは、移民に向けた英語教育が子どもと大人それぞれに準備されています。
ESLとはEnglish as a Second Languageの略で、第二言語としての英語教育のことです。
子どものESL
移民の子どもを対象とした集中ESLクラスが設置されている学校があるのは、政府の公立小学校の一部です。
特に移民してきたばかりの子どもたちには、それぞれの自宅までスクールバスが送り迎えをするサービスが提供されています。
集中ESLクラスで教えるのはESL免許と小学校免許を持つ教員です。
いろいろなタスクを工夫して、さまざまな国から来た子どもたちに上手に教育をします。
英語のみが共通語ですから、英語を英語で教えるのです。
一年もすればたいてい普通クラスに編入され、同じ学年のオーストラリアのクラスメートと一緒に学んでいくことになります。
参照:http://www.education.wa.edu.au
大人のESL
お父さんやお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんといった、移住してきたばかりの大人たちも英語が話せません。
近い将来には、生活に慣れるだけでなく、仕事を見つけることも必要となるでしょう。
そうした人たちのために、政府は移民者のための英語プログラムAMEP9を設けて、レベル別・目的別・スキル別の英語コースを提供しています。
初級レベルは、実際の生活に役立つ事がらを、ロールプレイなどによってわかりやすく学習するという内容です。
大人のクラスでは、教員自身も移住してきた人たちがたくさんいます。
英語だけではなく、移民の先輩としてサポートできる教員です。
年齢層も出身国もさまざまで、子育て世代は教育施設にある保育センターを利用することができます。
参照:https://www.northmetrotafe.wa.edu.au
小学校教育
日本と比較したオーストラリアの小学校教育についてまとめます。
オーストラリアの学校にないこと
日本の学校は、子どもたちにとって生活のすべてです。
日本の学校と比べると、オーストラリアの学校生活には「ない」ことがたくさんあります。
・教科書がない
教科書は使わず、カリキュラムに沿って教師が教材を作成します。
・市販のテストやドリルがない
宿題は、学級にある本を借りて読むことや、子ども自身が決めた課題をやることぐらいです。
・長期休みに宿題がない。
長い休みに宿題は出ません。
夏休み帳や自由研究などももちろんないのです。
・参観日がない
・給食がない
昼ご飯は家庭からお弁当を持ってくるほか、お昼をメニューから注文しておくこともできます。
カンティーン(売店)があり、アイスクリームやジュース、お菓子まで買うことも可能です。
肥満は大きな社会問題になっています。
オーストラリアでは子どもの肥満も増えているので、食習慣を見直す必要があるというのが筆者の考えです。
・健康診断がない
歯の検査は、低学年のうちは政府のセンターに連れていくということが行われています。
・放課後活動がない
先生方は授業が終わると、3時半ころにはさっさと帰宅してしまいます。
・そうじがない
放課後になると、清掃員がやってきてそうじを行います。
この点で、筆者にとっての苦い経験談を一つ取りあげましょう。
教員として採用された初日、放課後、ひとり黙って翌日の教材作りをしていました。
すると、外から清掃員が鍵をかけてしまったのです。
あやうく、朝まで閉じ込められるところでした。
日本の学校と違うこと
どちらがいい・悪いとは言えませんが、日本とオーストラリアの学校を比較すると、違うことがたくさんあります。
・座学が少ない
黒板に向かって全員が同じ方向を向いて座るという一斉授業ではありません。
一年次からコンピューターを使った調べ学習や、ペアワーク・グループ学習が行われています。
・自主活動が多い
ゲームやプロジェクトなど、自主的な活動を多く取り入れています。
・教育方針が違う
オーストラリアは、才能を見つけ出し育てるという教育です。
全校朝会で、各クラスから選ばれた子どもたちが表彰されるということもあります。
それに対して、みんなが平等に機会を与えられるべきというのが、日本の教育です。
・行事は少ない
日本のように運動会や文化祭などの行事のために時間をかけて準備するということは、あまりありません。
その代わり、夜にディスコパーティや野外ムービーが行われることがあります。
親も子どもも先生方も、みんなで参加するものです。
ピザやジュースなどもふるまわれます。
家族で参加できる催し物という意味と、参加費を募る資金集めの意味を持つと思われるイベントです。
学校の休み
平日の放課後、土日や祝日、そして長い休みの期間中は校舎には鍵がかけられて閉められています。
4学期にわけられ、そのあいだは2週間ずつ休みです。
一番長い休みは、12~1月の2か月間。
クリスマスやお正月を、親の出身国で過ごす家庭も多くあります。
子どもたちはオーストラリア生まれでも、親たちは自分たちの母語を使って生活していることも多いです。
オーストラリアは多民族国家であり、それぞれの出身国の人たち同士が集まるコミュニティが数多く存在しています。
学校の役割と家庭の責任
学校と家庭の役割は明確に区別され、しつけやマナーは家庭の責任です。
基本的に教員は授業をする役割を担います。
登校時・下校時は、親が責任を持って子どもたちを送り迎えすることが一般的です。
学校のあとは、塾通いよりもスポーツや習い事に行かせる方が多く見られます。
バースデー・パーティーや、友達宅へのお泊りが盛んに行われるのも、日本ではあまりないことです。
大勢で集まるための遊戯センターも多く、親が費用を出せば、パーティの活動やケーキ・おやつなどすべてセンターで用意してくれるというサービスもあります。
日本人学校
パースには、日本の文部科学省に認定され、オーストラリア政府に私立学校として許可を受けた全日制の日本人学校があります。
教育の対象は海外勤務となった家庭で、日本への帰国が予定されている小・中学生の子どもたちです。
全校生徒40名ほどの少人数学校として、きめ細かい指導が行われています。
しかし最近の傾向として、日本人学校を選択せず、現地校に通う国際結婚の家庭の子どもたちも多い状況です。
土曜日本語補習授業校もあります。
こちらは日本人コミュニティによって設立され、現地校に通う子どもたちに日本語や日本文化を習得させるのが目的です。
国際結婚の家庭や、日本人学校を選択しない日本人家庭の子どもたちが増えたことで、400名を超える生徒数となっています。
ハイスクール
日本と同様私立学校と公立学校があり、日本でいう中学校と高校にあたる「Year 7~12」の学年まで、中高一貫教育が行われています。
才能育成プログラムと学校の行事
政府によって選定された公立学校には、それぞれ独自の才能育成プログラム(Gifted and Talented Programme)があります。
オーストラリアの実力主義的な競争社会を反映しているようです。
普通は住んでいるところによって校区が定められていますが、特別のプログラムに入学を許可された場合には校区の制限はありません。
学業・スポーツ・音楽・芸術・言語などの才能に長けた生徒を選び、育てるシステムです。
日本の運動会や修学旅行のような、学校全体の行事はあまりありません。
学校全体で行われる行事だったとしても、それは一部の秀でた生徒たちを選考するオーディションのようなものだったりします。
一般的に、選ばれた生徒たちのツアーだったり、学校代表としてコンクールや競技大会に参加したりすることが多いようです。
将来の進路
日本では、入学時点で1つのコースを選択し、そのまま進級します。
しかしオーストラリアでは、生徒自身が柔軟に選択をすることができるようカリキュラムを設定しているのです。
入学時から段階的に科目を選択し、学年が進むにしたがって各自の将来の目的を明確にしていきます。
資格取得のための職業訓練コースや専門学校から大学へつながるコース、大学進学を目的とするコースなどを決めていくのです。
まわりに影響されてなんとなく大学進学を選ぶ、大学のレベルや名前で選ぶという日本の傾向とは、かなり違いがあります。
コンピューターは必需品
一人ひとりが卓上コンピューターを持つことが義務づけられています。
出欠の有無、スケジュール・チェック、保護者と各教員間のメールのやり取り等各種連絡に使うのです。
そのために保護者用サイトと生徒用サイトが設定されています。
学期末の保護者面談もコンピューターで予約し、なんと成績もインターネットで送られてくるのです。
宿題や課題などもコンピューターを使うことが多く、ひたすら板書をノートに書き写すということがありません。
数学の計算も計算器を使うのが一般的です。
小学校から「Year3・5・7・9・11」の学年の時に、コンピューターによる共通テスト(NAPLAN)が行われます。
それによって読解、語彙・文法、作文、数学の能力が継続的にはかられているのです。
IT教育は、ハイスクールに入った段階で科目として取り入れられています。
プログラミング学習によるゲーム作りやPhotoshopの動画編集などは選択科目。
パンフレット作りなどのプロジェクト、パワーポイントを使ったプレゼンテーションなどは、さまざまな授業の中で行われています。
学校外の活動
学校の部活動はなく、コミュニティにおけるスポーツチームの活動が盛んです。
活動によっても違いますが、平日の夜はトレーニング、土日は試合など。
すべてに応援・送迎・ボランティアの役割がともなうので、親子ともに忙しくなります。
能力に秀でた子どもたちは、州をまたいだ試合に出かけることもあるのです。
学校には小規模の遠足はあるものの、全校生徒を対象とする旅行などはありません。
スポーツクラブのツアーに参加したりするのも、全て個人的な活動です。
まとめ
ESLクラス・小学校・日本人学校・ハイスクールと、日本との違いを中心にした視点から述べてきましたがいかがでしたでしょうか。
筆者はすべての学校に保護者の立場でかかわり、また一年余りを教員としても携わりました。
オーストラリアの教育環境は、何か特別なスキルや非常に優れた才能を発揮できる子どもにとっては、恵まれた機会を数多く手にするかもしれません。
しかし、平均またはそれ以下の子どもたちにとっては、選ばれる機会さえもない学校生活となります。
そして、その差は、非常に大きいと言わざるを得ません。
学校のニュースレター一つにしても、目立つのは勝ち組です。
筆者の家族はみんな「ふつう」なので、個人的には日本の環境のほうがやさしくなれます。
体験に基づいた情報は、すべてにあてはまるわけではありませんが、これから移住しようとする方たちにとって、役立つ情報になれば幸いです。