海外に行くとき、景色を楽しみにする方や史跡巡りを求める方、異文化交流を期待したり、国内とは違う環境を探したり、人によって楽しみにすることは異なると思います。
しかし、それらの主目的以外に、おそらくすべての人が現地の食を楽しみにしていると言っても過言ではないでしょう。
ここでは、そんな誰もが気になるアルメニアの食文化やについて説明いたします。
アルメニア料理は1つの文化であり、複数の文化でもある
アルメニアは、歴史的に独立したアルメニア王国のみならずローマ帝国、ペルシャ帝国、オスマン・トルコ帝国、ロシア帝国、ソビエト連邦と様々な国に占領された経験を有し、地理的にシルクロードの途中に位置し、様々な国の影響を受けてきたことが、その食文化に反映されています。
そのため、一部中東らしかったり、一部は明らかにギリシャからの輸入物であったり、一部は色んなところの料理が混ざって、もはやどこの出身かわからず、特に史跡等回らずとも、アルメニアの料理を通じてその豊富な歴史を体験することが可能です。
シャウルマ
Շաուրմա(シャウルマ)は、輸入物の代表で、ギリシャに行ったことのある方であればγύρος(ギロス、日本語名はギロピタ)を想起するのではないでしょうか?
ギリシャのギロピタと異なる点というと、ピタパンではなくラヴァシュ(լավաշ)という膨らませていない薄いパンを使用していることで、この薄いラヴァシュというパンこそ、アルメニアを代表する主食の一つとなります。
そして、このシャウルマにラヴァシュを使用することによって、より鮮明に具材の味を感じることができピタパンを使ったものより軽めのものになっています。
使用されるソースは、スタンダードのものでトマトと唐辛子を混ぜたちょっとピリッとするものがありますが、ガーリックマヨネーズのものもおすすめです。
ターブレー(タブーリ)
中東のレバノン出身のサラダで、レバノンではトマトやパセリ、ミント、レモン汁等を混ぜて作るさっぱりとした健康的なサラダですが、アルメニアではミントはあまり使用されず、代わりにコリアンダー(パクチー)を使用したり、中東版と比べて大量のブルガーを使用して、より重みをもたせることによって、通常のサラダよりかなり腹持ちがよく、ダイエットに向いています。
また、基本的にトマトとオリーブオイルを使用したソースをかけますが、このソースにひと工夫加えて、独自の味と風味を出すことによって、店や家庭の特徴となっていたりするので、一口にターブレー(タブーリ)と言っても、かなりのバラエティーがあるので、色んなところのものを試すのをおすすめします。
また、冷たく、レモンを使用していることから、夏バテ防止にもおすすめです。
トルマ(ドルマ)
オスマン・トルコ帝国の影響を最も感じる料理で、西はバルカン半島、東は中央アジア諸国、北はコーカサス地方、南はアラビア半島と幅広い地域で食べられている料理です。
今では、アゼルバイジャンのものがUNESCO登録されるほどになっていますが、その基となるものは、古代ギリシャのθριον(スリオン)と言われており、イチジクの葉を使って作られていたと言われています。
今ではキャベツやぶどうの葉を使うようになっており、アルメニアはワインの産地であることから、ぶどうの葉を使うものが多く、ほのかにぶどうの甘い香りがしています。
ホロヴァッツ(シャシリク)
旧ソ連圏全体で親しまれている肉の串焼きで、何かパーティーや宴会、特に夏の場合は必ずと言っていいほど出される料理となります。
もともとはコーカサス地方の料理で、ラム肉を使っていたものですが、今では地域の伝統や宗教等によって、牛肉、豚肉、鶏肉と様々なものがあります。
アルメニアのものの特徴としてはワインや酢のみならずザクロの汁を使ったソースに漬け込んだ肉を使っており、アルメニアのビール(アルメニアは、コーカサス地方で唯一ビールの文化がある国でもあります)によく合います。
アルメニアは飲料の宝庫でもある
アルメニアは、長らくオスマン・トルコ帝国やペルシャ帝国等イスラム国家に支配されていたものの、そのワインやアルコール飲料の製法を失うことなく、継続して生産しています。
現在ではワインのジョージア、コニャック(ブランデー)のアルメニアと旧ソ連諸国で言われるほど有名なものとなっています。
ワイン
アルメニアのワイン製造の歴史は長く、2007年にはアルメニアの南部に位置するアレニ(Արենի)という村の近くに紀元前5000〜4000年の遺跡があり、そこでワイン生産がされていたことが判明しています。
また、アルメニアでは、ぶどうからのワインだけでなく、国のフルーツとも言えるザクロから作ったワインも人気であり、非常にフルーティーで、デザートとよく合うものになっています。
国産ワインであることから、1リットルボトルが焼く250円程度でも購入することができ、非常にお手軽な飲み物となっています。
コニャック(ブランデー)
アルメニアはフランスと並ぶブランデー生産国であり、首都エレバン内でさえ大規模工場が3つほど、中小まで含めたら無数に存在します。
そして、これらのブランデー、旧ソ連圏のみならず西ヨーロッパにも広がっており、本場のフランス人ですらその味を認めるほどになっています。
更に、逸話として、第二次世界大戦中、スターリンがお土産としてチャーチルにアルメニアのブランデーをプレゼントしたところ、その後会談で合うたびにもっとないかとせがむ程チャーチルが気に入ったと言われるものがあり、そのブランデーは今でも生産されています。
なお、現地及び旧ソ連圏ではコニャックと呼ばれていますが、フランス側から「コニャックは、フランスのコニャック地方で生産されたもののみ」とされています。
タン
さて、最後にご紹介するものは、アルメニアの「伝統的」な飲み物で、コーカサス地方全体でも有名ですが、好きか嫌いか極端に分かれるような飲み物になります。
アルメニアは、農業が盛んな国で、食料自給率も高く、野菜やフルーツ、肉類や卵に加えて酪農も盛んに行われています。
その為、牛乳やチーズと行った、日本でも親しまれている乳製品に加えて、少々独特なものもあります。
その中でもタン(թան)と呼ばれるものであり「発酵した牛乳」から作られています。
「発酵した牛乳」で「飲み物」と言えば「飲むヨーグルト」を想起すると思いますが、タンは「飲むヨーグルト」とは異なり、甘くないです。
甘くないどころか、酸っぱい上にしょっぱいです。なので、「ヨーグルト」を想起しながら飲むと、かなりの衝撃を受けます。
更にものによっては油分を含んでいたりと、かなり好みが分かれます。
似た飲み物として、ケフィール(կեֆիր)というものがあります。こちらは純粋に薄く飲みやすくしたヨーグルトで、純粋なヨーグルト味のものや若干フルーツなど甘味を加えたものなどがあり、よりなじみ深いものになっています。
ただ、このケフィールとタン、レストランのメニュー等では同じ項目にされていることが多いので、注文するときは注意が必要です。
まとめ〜様々な文化が入り混じったからこそ味わえる食〜
アルメニアは、大陸国家であり、地理的に東西の分岐点に位置していたことから、様々な国や民族の食文化が流入し、更に他のものと混じって進化していったことから、一つの国にいながら様々なものが味わえる非常に稀有な国です。
アルメニア料理を試す機会がありましたら、上記で紹介したものだけでなく、他の料理も味わい、アルメニアの豊富な歴史と文化に触れてみてはいかがでしょうか?